たぶん思ったことあんまりまちがってない

ジャズ アルバム紹介やライブの感想など 

猫とジャズ

Amazonに注文していたCDが届きました。

Paris Blues

Paris Blues

ギル・エバンスとスティーブ・レイシーのデュオ。こういうアルバムがあることは知っていたのですが、ずっと入手のタイミングを逃していました。届いてからヘビーローテーションで聴いてますが、噂に違わず素晴らしいですね。レイシーのソプラノが良いのは言うまでもありませんが、ギルのピアノがまたすごい。レイシーが内ジャケのコメントで書いているように、ギルの”wonderful improvisation”を堪能できます。バッキングも個性的で、美しく、刺激的。

 7曲中3曲を占めるミンガスの曲がどれも最高。「オレンジ色は彼女の色」はミンガスの曲の中でも特に好きな曲です。レイシーはたしかミンガス曲集を出していたし、ギルがミンガスの曲をやることも何もおかしくないと思うのですが、モンクの曲をやっていないのがちょっと意外であり、残念。

 

 猫2匹のジャケを見ていて思ったのですが、ジャズと猫って浅からぬ関係がある気がします。ジャズ・ミュージシャンを指す"cats"という俗称、モンクらのパトロネージとなったパノニカが100匹以上の猫と暮らしていた「キャットハウス」、猫がタイトルに使われているアルバム・曲もけっこうあります(トミフラ、コルトレーンの「キャッツ」とか、ジミー・スミスの「ザ・キャット」)。日本では林栄一さんや川下直広さん、吉田隆一さんなどが大の猫好きとして知られています。藤井郷子さんのガトー・リブレは「自由な猫(野良猫?)」って意味だったはず。こうやってあげていくとキリがないくらい、猫絡みのジャズっていっぱいあります。

一般的には猫好きと同じくらい犬好きもいるんじゃないかと思いますが、ジャズ界隈では猫の方が圧倒的に登場率が高いと思うのは気のせいでしょうか?ジャズに限らず、猫好きは猫への愛を積極的に表明する人が多いような気もしていて、その辺がジャズで猫が目立ってる理由なのかもと思ったり。

 

酔った猫が低い塀を高い塀と間違えて歩いているの図

酔った猫が低い塀を高い塀と間違えて歩いているの図

大好きな作品。改めて考えると、このアルバムに参加した10人の内4人も亡くなってるんですね…。

 

phone-phone

phone-phone

7曲目に「猫の考えたジャズ」という曲が。「南から」は定期的に聴き返したくなる名曲。

 

 

藤井郷子オーケストラ 10月22日

藤井オケ、行ってきました。

 

藤井郷子オーケストラ 2012年10月22日@新宿ピットイン

早坂紗知、泉邦宏(As)、松本健一、木村昌哉(Ts)、吉田隆一(Bs,Fl)、田村夏樹、福本佳仁、渡辺隆雄、城谷雄策(Tp)、はぐれぐも永松、高橋保行、古池寿浩(Tb)、藤井郷子(Pf)、永田利樹(B)、堀越彰(Ds)

 

1stセットは初演を含む新しい曲を4曲、2ndセットは「やり慣れた曲」(藤井さん談)。頻繁に拍子が変わったり、大編成でありながらその中で様々な編成が出てきたり(テナーとトランペットのデュオ、トランペット無伴奏ソロ、トロンボーンとバリトンのデュオなどなど)、弱音で始まったと思ったらぐっちゃぐちゃのカオス状態になったり、民謡風のテーマの曲があったり、すさまじく多彩なライブでした。メンバーも一癖、二癖、三癖ある個性派ばかりなので、特殊奏法含め色んな音が聴けて大満足。

最後のBennie's Waltzが特にグッときました。(他の曲に比べれば)シンプルな、哀愁漂うワルツ。早坂さんのアルトソロがパワフルで、ダイナミックで、ある種の”説得力”に満ちていました。「俺はこういう演奏が聴きたくてジャズを聴いてるんだ!うおおおおおおおおお」と心の中で叫んでいました。最高。

しかしお客さん少なかったですね・・・。藤井さんの「来日公演」は貴重だし、現行日本で聴けるトップレベルのフリージャズオーケストラだと思います。平日なので社会人はキツいかもしれませんが、ジャズ研の学生とか何でこういうの聴きに来ないんでしょうか。ジャズという音楽の懐の深さ、楽器の奏法や作曲の可能性、色んなものを生で体験できるというのに。

 

ゼフィロス

ゼフィロス

藤井郷子オーケストラ東京の「Live!」を貼りたかったんですが、Amazonにはないらしく・・・。代わりと言っては何ですが藤井カルテットを。

 

Zu and Spaceways Inc. RADIALE

(私的)ヴァンダーマークブーム、まだまだ続いています。

 

Radiale

Radiale

Zu=Tacopo Battaglia(Ds), Massimo Puppilo(B), Luca T. Mai(Bs)

Spaceways Inc. =Hamid Drake(Dr), Nate Mcbride(B), Ken Vandemark(Reeds)

 

英語版wikipediaによると、Zuはイタリアのインストバンド。「ジャンルの特定は難しい」とありましたが、確かに既存のジャンルにはハマらないかも。ゆがんだぶっとい音のベースとバリサク。いわゆる「ジャズ」っぽくはないですがカッコイイですね。

本作はそのZuとヴァンダーマークのトリオのコラボ。前半4曲はZu+Ken Vandermarkのカルテットで、後半4曲はSpaceways Inc+ZUのダブルトリオ。前半も良いけど後半が特に素晴らしい。ファンカデリックやサンラのノリの良い曲をツインドラム、ツインベースとフロント2管でブリブリ、ごりごりやってます。即興の掛け合いとかはあまりないんですが、ストレートにカッコイイですよ。このアルバムのSpace is the placeを聴いてまったく興奮しない人とは、音楽に関しては分かり合えない気がします。理屈抜きにカッコイイと思うので。

 


ZU feat Mats Gustafsson and Ken Vandermark

Zuとヴァンダーマークにマッツまで。バリサク3本並ぶと迫力ありますね。

 


Tokyo-Chutei-Iki North Sea Jazz 2010

バリサクと言えばコレ。最高にアホです(もちろん褒め言葉。それも最上級の)。

 

 

 

訃報続き・・・

デヴィッド・S・ウェアが亡くなったそうです。

http://www.aumfidelity.com/news.htm

先週はジョン・チカイが亡くなりましたし、ジャズに関係が深い人物という意味では若松孝二監督も…。熱心なファンというわけではないので、私に語る資格はありません。しかし、それぞれの表現から感動を受けたという事実は変わりませんし、そのことに心から感謝したいと思います。追悼の意味も込めて、彼らの残した宝物のような音源を、これから少し探してみようかな。

 

当たり前ですが、人はいつ死ぬか分かりません。このブログを書いている今にも私は死ぬかもしれないし、むしろあと70年くらい生きるかもしれない。だからこそ、表現を目の前で見て、聴いて、体験しておきたいミュージシャンの方がたくさんいます。

実は、このブログの名前の由来である古澤良治郎さんも、生で見たことはありません。様々な形で古澤さんが残した表現の素晴らしさは変わらないし、古澤さんから影響を受けたミュージシャンの演奏を見ることもできます。それでも、やっぱり生で見たかったなあ・・・と思うわけです。いつかピットインで開場前に並んでいるときに、「昔ここでエルヴィン・ジョーンズ見たんだけど、すごかったなあ」と言っているおじさんを見て、心底うらやましいと思ったことがありました。もし私に子供や孫が生まれて、その子たちがジャズファンになったときには、「お父さん(おじいちゃん)昔〇〇さんの演奏生で見たんだぞーすごいだろー」と自慢することでしょう。

 

人生どうなるか分かりませんが、そのときそのときで自分に与えられた役目に誠実に向き合いつつ、出来る限り色んな表現に触れていきたい。相次ぐ訃報に接して、そんなことを考えてしまいました。


Miles Davis - He Loved Him Madly part 1.wmv

マイルスのエリントン追悼曲。追想に耽るのにこれほどふさわしい曲を他に知りません。

Return of the 5000 Lb Man

Return of the 5000 Lb Man

サックス奏者の追悼ということで、このアルバムのグッバイ・ポークパイ・ハットを聴いて寝ます。

 

林栄一ガトス・ミーティング 新譜情報解禁!

約半年待ち続けているガトス・ミーティングのライブ盤の情報が解禁されました!

http://catfishrecords.jugem.cc/?eid=4160

林栄一(as)、吉田隆一(bs,fl,MC)、ネパール(tp)、斉藤”社長”良一(gt)、後藤篤(tb)、岩見継吾(b)、オノアキ(el-b)、磯部潤(dr)、池澤龍作(dr)

 

林さんの名曲の数々を、ツインベース、ツインドラムにフロント4管とギターというごっつい編成でやるバンドです。2012年5月21日にアケタの店でライブ録音ということですが、このライブ私行ってます。私の拍手や歓声も入ってるかも(笑)

6月にあるライブで吉田さんに「ガトスの新譜っていつ頃出ますか?」と聞いたところ、「諸事情あって録り直しです」とおっしゃっていました。その後、8月半ばにもう一度アケタの店でライブ録音の予定だったのですが、某事情でメンバーの1人が欠席し、録音中止に(この日のライブも行きました)。いったいどうなるんだろうかと思ってましたが、結局5月の録音で出すってことみたいですね。客として観ている分には最高に楽しいライブだったのですが、CDで聴くとどうなるのか、めちゃくちゃ楽しみです。

11月8日に新宿PIT INNに出るので、そこの物販で買えるかもと期待してます。ライブ・アルバムの感想も書こうと思ってますが、私の駄文なんか読まなくて良いのでライブに足を運ぶことをおススメします。

 


林栄一の"Gatos Meeting"@yokohamaエアジン2011

この日はオノアキさん不参加みたいですね。5月のライブではフレットレスベースを演奏していて、オノさんのソロから始まる曲もあったはず。

 

ガトス・ミーティング GATOS Meeting

ガトス・ミーティング GATOS Meeting

Amazonでも曲目リスト出てますね。4曲目の「ガトス・ミーティング」は、先日貼ったオドゥンの「三星天洋」では「チャイニーズ・サーファー」というタイトルだった曲だと思います。何で曲名変更したかは・・・知りません(笑)

 

粋な夜電波(10月14日放送)を聴く

ゲストは引退を表明したピアニストの大西順子さん。

 

2012年10月14日・菊地成孔の粋な夜電波(TBSラジオ)

菊地さん、大西さんも言っていましたが、ジャズで引退を表明する人ってまずいないと思います。「事実上の引退」みたいな形でフェードアウトしていく人はいても、ある程度の活動歴と知名度があるミュージシャンが引退を表明するっていうのはちょっと聞いたことがありません。

国内で言えば、渋谷毅さん、鈴木勲さんなどは、70歳を過ぎてなお現役バリバリで活躍していますよね。しかも懐古趣味的な演奏をするのではなく、若手も含めた色んなミュージシャンと共演して、新しい音楽をやり続けています。今年秘宝感のライブに鈴木勲さんが1曲飛び入り参加したのを見たのですが、息子娘以下の年齢のメンバーと一緒にガチのフリーセッションをする鈴木さんは、もう言葉にならないほどかっこよかったです。

ところが、大西さんは、モダンジャズは唯一の例外(アート・テイタム)を除いて、老境に入った演奏よりも絶頂期の演奏の方が優れていると言います。筋肉なり体調なりに衰えが出るのは否めないとのこと。特にフリージャズにおいては、下手だったり、ヨレヨレだったりすることも優れた個性に昇華することがあるので、ただのリスナーとしては、心動かされる演奏なら何でも良いと思うのですが。

そんな話を聞いていて、アルバム評なんかで「高い音楽性」とか「音楽的にレベルが高い」みたいな言葉を目にすることがありますが、それっていったい何だろうと改めて思ってしまいました。たとえば、高級フレンチのフルコースと牛丼どっちが「レベルが高い」か、誰が決められるのでしょうか。手がかかっているとか、味や香りが複雑だとか、基準を定めることもできなくはないのかもしれません。しかし、受け手の好み、気分や状況次第で、何が「良い」かは全然違うでしょう。この辺り、作り手の意識や求めるものと、色々ギャップがあるのかもしれません。

 

秘宝感

秘宝感

  • アーティスト: 秘宝感,斉藤良(ds),纐纈雅代(as),スガダイロー(p),佐藤えりか(b),熱海宝子(秘)
  • 出版社/メーカー: ローヴィング・スピリッツ
  • 発売日: 2011/03/30
  • メディア: CD
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ピットインの昼の部を中心に活動しているので、ライブに行くことが難しい人も多いと思いますが、ぜひ生で「体験」することをおススメします。ビジュアル面も含めて素晴らしいパフォーマンスです。

ドルフィーと異物感・異次元感

私が好きなジャズミュージシャンの中に、ある種の「異物感」を覚えるような演奏をする人たちがいます。その代表格が、エリック・ドルフィー(as,bcl,fl)です。

 

アット・ザ・ファイヴ・スポット VOL.1

アット・ザ・ファイヴ・スポット VOL.1

前にも少し書きましたが、私はこのアルバムに衝撃を受けて本格的にジャズを聴き始めました。それ以前にもビル・エヴァンスあたりを「ジャズってお洒落でかっこよさそう」というステレオタイプをもって聴いていて、「ワルツ・フォー・デヴィ」なんかを「いい曲だなー」なんて思ってたんですが、ジャズを自分にとって特別なものとして聴いていたわけではありませんでした。ところが、このアルバムを聴いた時に、他のものとまったく違う何かが演奏されているように感じたのです。アルトもバスクラもとっても”ヘン”だし、ソロの展開も次にどこに動くかまったく予想がつかない。こんなにかっこよくて、変わってて、刺激的な音楽があるんだということを教えてくれたのがドルフィーでした。

ドルフィーの演奏は、バンド全体のサウンドの中ですごく異質のものに聴こえることがあります。たとえばオリバー・ネルソンの「ブルースの真実」。きれいなアンサンブルの後にドルフィーのソロが始まると、その瞬間に空気がパッと変わるように感じます。ミンガスやジョージ・ラッセルといった個性的なリーダーのバンドの中にいても飲み込まれることなく、一人異次元の音楽をやっているように思うのです。

「異物感」という点では、セロニアス・モンクローランド・カークも同じようなものを持っていると思いますが、彼らはバンド全体のサウンドを自分の色に染めてしまうタイプではないでしょうか。ギル・エヴァンスのオケとカークの共演盤がありますが、あれはカークが出てくると「カーク withギルオケ」になってしまう(笑)。ドルフィーはそれとは微妙に違うように思うのです。

そして、「異物感」という意味で、自分にとって一番ドルフィーに近いものを感じるのは、林栄一さんです。演奏のスタイルや内容が似ているとかいうことではないのですが、たとえば渋谷毅オーケストラで林さんのソロが始まると、同じような空気の変化、異次元の演奏を聴いている感覚があるのです(渋オケの他のメンバーに興味がないわけではありません。全員最高です)。

今改めて聴くと、やはりエヴァンスもとんでもないミュージシャンですし、モンクやカークもめちゃくちゃ好きなんですが、自分にとってドルフィーは特別な存在であり続けています。日々日常的に聴いているわけではありませんし、録音をコンプしているような熱狂的なマニアでもないので、偉そうなことは言えないんですが、色々ジャズを聴いていて、何だかんだで帰ってくる場所はいつもドルフィーなんです。

 

イン・ヨーロッパ VOL.2+1

イン・ヨーロッパ VOL.2+1

定期的に、このアルバムの「Laura」を聴きたくなります。カデンツァにめっぽう弱くて、条件反射的に泣けてきます(笑)

 

三星天洋

三星天洋

作曲が素晴らしいし、林さんの無伴奏ソロも聴けておススメ。メンツも豪華です。