たぶん思ったことあんまりまちがってない

ジャズ アルバム紹介やライブの感想など 

Steve Lehman / Sélébéyone

めちゃくそカッコイイ。

 

 

Selebeyone

Selebeyone

 

Gaston Bandimic(vo:Wolof) HPrizm(vo:English) Steve Lehman(as) Maciek Lasserre(ss) Carlos Homs(p, key) Drew Gress(acb) Damion Reid(ds)

 

 

3か月も放置していたのでもはやブログの書き方も忘れてますが、この作品のレビューはもっとたくさん書かれるべきだろうと思いまして。スティーヴ・リーマンの新譜の感想を簡単にまとめておきます。

 

リーマンと言えば、私にとっては長らくCamouflage Trio等での激烈なアルトサックスが印象的な人だったのですが、彼はコロンビア大学で博士号を取得している知性派でもあり、近年は作曲と即興を極めて緻密に組み合わせたような作品群を発表して話題を呼んでいます。個人的には「頭良さそうな作品ばっかり作ってないで、もっとゴリゴリ吹いてくれよ!」と不満に思うこともなくはなかったのですが、一昨年に出た『Mise en Abîme』はあまりにかっこよく、私も「生意気言ってすんませんでした…。超カッコイイっす…。」と降参宣言したのでした。

 

 

 

そんなリーマンの新譜、なんとセネガル・ラップ入り。恥ずかしながら全然知らなかったのですが、セネガルのラップシーンというのは独自の発展を遂げており、かなり盛り上がっているようです。また、リーマンのコロンビア大学時代の師の1人はトリスタン・ミュライユという現代音楽の作曲家で、本作にはミュライユらスペクトル楽派の手法も取り入れられているそうな。・・・なんだか要素が多すぎて訳分からんですが、なにはともあれ↓の試聴音源を聴いてみてください。

 

 

私が本作を聴いて最初に思ったのは、「ヒップホップとしてくっそかっけえ!!」ということでした。リーマンがアルトサックス奏者/ジャズミュージシャンであると思って聴くと別の感じ方になると思うのですが(Twitterで交流を持たせてもらっているkenさんのブログ記事が大変興味深いです)、私の第一印象は超ドープなトラックの上にラップとサックスが乗っている、というものでした。

 

「ヒップホップとジャズ」と言えば、やはり最近はロバート・グラスパーらいわゆるJTNC系を想起せざるを得ないわけですが、リーマンのアプローチはそれとはまったく違うように見えます。Jazz The New Chapterが提示したのは、「ヒップホップetc.を自分のものとして消化してきたミュージシャンたちのやるジャズ」が見せる大きな広がり、という物語でした。グラスパーらのやっていることは、「ジャズ」としての面白みに欠ける旧来の「ジャジー・ヒップホップ」のようなものとは一線を画しているようであり、その意味では確かに新世代感があると思います。しかし、個人的にいまいちノリきれていないのは、「ラップが乗るビート」としてはあまり新鮮さを感じないというところだったりします。

 

たとえばこれ。 ポップで洗練されていますが。

 

これに対し、私はリーマンの本作を「現代ジャズ・現音etc.の要素をぶち込んだトラックにラップとサックスを乗せているもの」として受け取ったわけです。ここでは、身体器官の延長としてのアルトサックスから発せられる音が、生身の人間の肉声によるラップと並列に扱われているように思います。管楽器奏者がリーダーの作品であるにもかかわらず、管があまり前面に出ないミックスになっているのも、リーマンが意図的にそうしたのではないかと。

上述のkenさんのブログでは、

・ラップをバックにしたフリーっぽいアルト。

Steve Lehman: Sélébéyone (2016) 奇妙な味、が美味しかった - Kanazawa Jazz Days

と表現されていましたが、私は本作を聴いてラップとアルトの両方がトラックと見事に絡み合っていることに大興奮しました。奇しくもグラスパーの作品にも参加しているダミオン・リードの叩く頭おかしいとしか思えないドラムetc.によって構成される超トガったトラックが、アルトのソロが乗るものとしても、セネガル・ラップが乗るものとしてもばっちりハマっていて、なおかつ強烈に刺激的なのです。

やはりこれは「ジャジー・ヒップホップ」でも、「ヒップホップ以降のジャズ」でもなく、スティーヴ・リーマンにしか作り得なかった凄まじい作品と言うべきでしょう。単純バカなフリージャズ愛好家の私としては、吠えまくるリーマンが聴きたいという気持ちもやっぱり捨てきれないのですが、それにしてもこの作品にはやられました。またしても降参です。

 

本作には色んな要素がぶち込まれているので、まだまだ各方面から語れることがたくさんあるはずです。既にPitchfork等海外のサイトではレビューが結構アップされてますが、日本語で書かれたレビュー・感想をもっともっと読みたいなと思っています。

 

 

白石民夫@新宿西口カリヨン橋

わずか20分。

 

 

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2016年6月3日・白石民夫@新宿西口カリヨン橋

白石民夫(As)

 

ちらほらと噂は耳にしていた白石民夫さんの路上演奏、ついに生で体験することができました。22時少し前にカリヨン橋に着くと、しゃがみこんで何やら準備をしている白石さんと10人ほどのギャラリーが。人通りが多い場所ではないものの、新宿の駅前ですから、通り過ぎていく歩行者はそれなりにいます。白石さんは見た目普通のおじさんですし、楽器をもっているので「これから何か演奏するんだろうな」って感じに見えたと思いますが、橋の片側に寄って演奏開始を待つ観客たちは何の集団なのか分からない有象無象感があり、なかなか異様な雰囲気でした。

そんなことを考えていると観客もだんだん増えていき、22時を少し過ぎたあたりで演奏が始まりました。キュルキュル、キーキーと高音を数分鳴らしては少し休む(リードやマウスピースを交換?)という、ただそれだけのことを20分ほど。当然、車や歩行者の会話の声といった色んな街の音が同時に聞こえてくるわけですが、そんな中で白石さんの出す音がひたすら夜の空に吸い込まれるように消えていきます。演奏が進む(?)につれてトーンの変化もあったりするのですが、一瞬前に鳴っていた音は二度と再現され得ないものであるということが強く感じられ、ベタですが"You can never capture it again"という例の言葉が頭を過ぎったり。

 


Last date- Miss ann.

 

演奏中、橋を通り過ぎていく人たちの反応も様々でした。いぶかしげな目線を向ける人。鼻で笑う人。スマホでぱっと写真を撮ってすぐ立ち去る人。観客のカメラに入らないように気を遣い、しゃがんで通り抜けていく人。一瞥もくれない人。思いがけない音にビクッとする人。

実のところ、私はいわゆるサウンドインスタレーションだとか、出音そのものとは関係ない要素の多いパフォーマンスの類には軽い苦手意識を持っていたりします。しかし、この白石民夫さんの路上演奏からは、通行人やギャラリーの反応も含めた「場」の空気を丸ごと体験することによって初めて生まれたのであろう「何か」をビシビシと感じて、なぜだか分かりませんが猛烈に感動してしまいました。

最終的に観客は20人以上、おそらく30人近く来てたと思います。動画を撮っている人も何人かいたようですが、あの空気感は絶対に生で体験すべきものだと思います。6月12日(日)22時から同じ場所で演奏するそうなので、興味のある方はぜひ。

 

 

<参考動画>


白石民夫/20150701/at新宿カリヨン橋

 

 

地下鉄「Subway in NY・Live」

地下鉄「Subway in NY・Live」

 

NYの地下鉄での演奏の記録。これまた凄まじいです。ジョン・ブッチャーホーコン・コーンスタがやっていたような、採石場や古い教会みたいな特殊な響きを持つ場所での演奏をやってくれたら、ぜひ生で体験してみたいです。

 

川下直広カルテット@入谷なってるハウス

かぶりつきでド迫力。

 

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2016年5月28日(土)川下直広カルテット@入谷なってるハウス

川下直広(Ts)、山口コーイチ(P)、不破大輔(B)、岡村太(Ds)

 

 

川下直広カルテットの新譜『初戀』発売記念ライブに行ってきました。リーダー川下直広さんの目の前の席で、思う存分テナーの音を浴びることができて大満足でした。演奏されたのはたぶん以下の曲(メモ取らなかったので順番とか諸々間違ってる可能性あり)。

 

<1st>

Alfie(Burt Bacharach)、The Rain(Eddie Gale)、Saving All My Love For You(Michael Masser, Gerry Goffin)、You've Got To Have Freedom(Pharoah Sanders

 

<2nd>

First Song(Charlie Haden)、Misty(Erroll Garner)、Things Have Got To Change(Cal Massey)、The End Of The World(Arthur Kent)、I Love You(尾崎豊

 

新譜のライナーノートには「革命」「戦場」といった物騒な言葉が躍っているんですが、個人的にはそういったイメージが喚起されることはまったくなく。もちろん熱気や良い意味の暑苦しさもありますが、スタンダードやポップスカバーを歌い上げるこのバンドの演奏から感じたのは、強烈な生々しさをもった「ジャズ」でした。

一口に「ジャズ」といってもジャズ観なんてものは十人十色、百人百色。端正なピアノトリオにうっとりするのが好きな人もいれば、統制の取れたビッグバンドを愛する人もいるし、ドシャメシャフリーの自由さに熱狂する人もいて、それぞれに「これぞジャズの醍醐味!」と感じるところがあると思うのですが、私にとっては川下直広カルテットの演奏がまさにそれ。

独特なビブラートの効いた川下さんのテナーは力強く「息」を感じさせるもので(息継ぎすらもカッコイイ)、管楽器の美味しいところが詰まっています。シンプルに演奏されるホイットニー・ヒューストン尾崎豊といったポップスのカバーは、下手をするとクサいムードテナーになってしまいそうですが、川下さんの演奏からいつも連想するのはローランド・カークアーチー・シェップアルバート・アイラーといった名前。ポップスやR&B、黒人霊歌などを「歌う」テナーの系譜にあると勝手に思っています。地を這うような不破大輔さんのベースもそんな川下さんのテナーと相性バッチリで、私の好みど真ん中。実にたまらん演奏でした。

新譜の正式な発売日は6月19日(地底レコードの通販受付はもう始まっています)。この記事冒頭に貼ったフライヤーの画像の通り、まだまだライブあるそうなので興味がある方はぜひ。ライブ会場で、生で聴くことをオススメします。

ちなみに@Sightsongsさんも聴きに来ていて(ブログ記事参照)、開演前から帰りまでずっと音楽の話。JAZZ TOKYOの取材やレビューの裏話なんかも聞かせてもらったり。大変楽しかったです。

 

 

<参考動画> 


【お薦め】川下直広カルテット/Rain 他

 


Kawashita Trio / You've Got To Have Freedom (1/2) 川下直広トリオ

 

 

2016年4月29日 渋谷毅オーケストラ(ゲスト:吉田美奈子)

グレート・マンネリズム。

 

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2016年4月29日(金)渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン

渋谷毅(P, Org)、松風鉱一(As, Bs, Fl)、峰厚介(Ts)、津上研太(As, Ss)、林栄一(As)、上村勝正(B)、外山明(Dr)、石渡明廣(Gt)

スペシャルゲスト:吉田美奈子(Vo)

 

渋谷毅オーケストラのライブを観てきました。年に数回は必ずライブを観ているし、アルバムも全作所有している大好きなバンド。ピットインでは1~2ヵ月に1回くらいのペースでライブやっていたと思うんですが、最近は頻度が減っていて寂しく思っていたところ、今月は28日と29日に2Days。私はゲスト入りの2日目だけ観ることができました。

セットリストは以下の通り(メモ取ってないので記憶違いもあるかも)。

 

<1st>

Side Slip(石渡明廣)、Ballad(石渡明廣)、Three Views of a Secret(ジャコ・パストリアス)、もはやちがう町(石渡明廣)、Chelsea Bridge(ビリー・ストレイホーン)、Brother(林栄一

 

<2nd>

Jazz Me Blues(トム・ディレイニー)、30秒の奇跡(倉田信雄)、8月の永遠(渡辺香津美)、Encounter(吉田美奈子)、The Life(吉田美奈子)、星の海(吉田美奈子)、Everyday I Have the Blues(ピーター・チャップマン)

アンコール:Danny Boy(Trad)

 

1部はまったくもっていつもの渋オケでした。いつもの曲、いつものメンツ、いつものアレンジ。曲順だけは渋谷さんがその場で決めますが、それもいつものこと。あいさつもなくぬるっと「Side Slip」から始まり、「ああ、これだよこれ」と一安心(?)。渋谷さんが「研太、頼むね」とぼそっと言ってから始まった「Three Views of a Secret」での津上研太さんのソプラノの素晴らしさ(津上さんにはソプラノ中心のリーダー作を出してほしいと密かに思っています)。「もはやちがう町」で独特の哀愁を帯びた音を撒き散らす林栄一さん。異能集団の中でも一際異彩を放つ外山明さんのドラム。やはりこのバンド、尋常ではありません。いつ見てもだいたい同じことしかやってないのに、なんでこんなに良いのか。

そして2部、1曲目は「肩をほぐすため」といつもの「Jazz Me Blues」でしたが、2曲目から最後までゲストの吉田美奈子さんが参加。去年のピットイン50周年記念コンサートでもやったようですが、私はボーカルの入った渋オケは初めてでした。吉田美奈子さんも、名前は知っていたけど聴くのはまったく初めて。松風鉱一さんのフルートをフィーチャーした(リズムセクション以外はお休み)「30秒の奇跡」を聴いたときは、「この人、死ぬほど歌上手いけど歌い方好みじゃないな。特にビブラートの効かせ方が…ぐぬぬ…」等と思っていたのですが、2曲、3曲と聴いていくうちにグイグイ引き込まれました。ソウルフルに歌い上げる「Encounter」なんてめちゃくちゃカッコイイではありませんか。峰厚介さんら歴戦の猛者たちによる歌伴もばっちりだし、渋谷さんの手によるものと思われるアレンジも良い。

アンコールは渋谷・吉田デュオで「Danny Boy」。言わずと知れた有名曲で、ジャズメンのカバーも多くありますが、「幸い薄く見ゆる日」という題で讃美歌になっていたりもします。これがまた胸にじんわり沁みる良い演奏で。長年浅川マキさんの歌伴を務めた渋谷さんの無駄のないピアノが素晴らしかった。

渋オケの演奏で1番好きな「Soon Ah Will Be Done」と「Lotus Blossom」が聴けなかったのは残念でしたが、いつもの渋オケと新しい渋オケが聴けて大満足でした。渋オケに関してはCDよりもライブの方が圧倒的に良いと思っているので(CDも愛聴してますが)、未経験の方、「そういえばしばらく行ってないなあ」という方はぜひ。心からオススメします。

 

 

<参考動画>


渋谷毅オーケストラ 2015.12.26 大和田伝承ホール 最終曲とアンコール

 


takeshi shibuya piano solo at uramado

 

 

 

 

ずっと西荻

ずっと西荻

 

今のところの渋オケ最新作。といっても13年近く前ですが。古澤良治郎さんが亡くなって以降の録音って出てないですよね。そろそろ何か出してくれないかな…。

 

(おまけ)

Steal Away

Steal Away

 

ハンク・ジョーンズチャーリー・ヘイデンが淡々と讃美歌や黒人霊歌を演奏するだけの作品。この盤の「Danny Boy」が良いんですよ。同じデュオ作で、ハンク・ジョーンズの遺作となった『Come Sunday』も良作。

 

 

 

2016年4月10日 エヴァン・パーカー@稲毛CANDY

この体験をどう言葉にしたものか…。

 

 

2016年4月10日(日)エヴァン・パーカー@稲毛CANDY

 

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Evan Parker (Ss, Ts) 

 

 

実のところ、私は日常的にエヴァン・パーカーの録音を聴きまくっている熱心なファンというわけではなく、彼がアホかと思うほど大量に出している作品のうちのごく一部しか聴いていません。しかし、去年草月ホールで観た演奏、とりわけトリオからソプラノソロに移行する瞬間の空気の変化がどうにも忘れられず、今度はソロでガッツリ観たいと思いまして、約2時間かけて稲毛のジャズ喫茶キャンディまで足を運んできました。

 

 

<1stセット>

ソプラノサックスソロを25分ほど。「これぞエヴァン」という、循環呼吸とマルチフォニックスを巧みに用いたノンストップの即興演奏。客席1番前、手が届きそうなほど近くで堪能しました。これがCD等で聴いていた通りの凄まじい演奏だったのですが、実際に目の前で聴いてみて思い浮かんだのは「グルーヴ」という言葉。ミニマル・ミュージック的に少しずつ出音が変化していくことに伴う大きなグルーヴと、重音の低音部分をリズミカルに鳴らすことで生まれるグルーヴが合わさって、非常に大きなうねりを生み出しているように感じました。さらに、生の高音が左右の鼓膜をビリビリと揺らし、ずっと耳の奥を左右交互に撫でられているような感覚も。じっと聴いているうちに時間の感覚も変容・崩壊してきて、魔法にかけられたような気分でした。

 

 

<2ndセット>

15~20分ほどの休憩を挟んだ後に2ndセット。テナーで1本、ソプラノで1本、短めの即興演奏を計2本やってくれました。テナーの前半は循環呼吸を用いず、フレーズ感のある演奏。生で聴くテナーの音色は柔らかく、ある種ブルージーにすら感じられました。後半は得意の循環呼吸・マルチフォニックスが飛び出し、こちらではダーティーなトーンも。これがまたかっこよかった。最後はソプラノソロで〆。Sightsongさんが「鳥の歌声」と的確にたとえられていますが、どこまでも透き通った天上の音楽のように聴こえ、陶然としてしまいました。完全に心を持っていかれました。

 

 

終演後はミーハー心を発揮して、エヴァンにサインをお願いしました。ものすごく集中した演奏を終えた直後なのに、「(サインを書く前に)ちょっとビール一口飲ませて」「これ君のペン?いいペンだね」なんて冗談めかして応えてくれて感激。

 

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サインをミュージシャンにお願いしたのはほとんど初めてTwitterでは「生まれて初めて」と書きましたが、よく考えたら一度だけオルケスタ・リブレのインストアライブ&サイン会に参加したことが)

 

数年来ブログを読ませていただいていて、先日Twitterで直接知り合った@Sightsongsさんと稲毛でラーメンを食べ、ジャズ談義などしつつ帰宅。いやー、久々に充実した日を過ごしました。

今回のツアーのオーガナイザーやCANDY等の関係者の方々に心から感謝します。こんなライブを日本で、しかも間近で観ることができて本当に良かったです。また別の編成でも観てみたいですし、そう遠くない未来に再来日してくれることを期待しています。

 

 

<参考動画>


Evan Parker - St Michael And All Angels, Chiswick, London, 11 October 2001

 


Evan Parker - Solo Tenor Improvisation at The Kernel Brewery, London

 

 

<お気に入りのエヴァン・パーカー参加作>

家を出るとき、どの盤にサインをもらうか決めかねて、リュックに4枚詰めていきました。結局、上記写真のように『Lines Burnt In Light』にサインしてもらったんですが、そのほかの候補3枚をついでにご紹介。

 

 

Monoceros

Monoceros

 

 比較的初期(1978年)のソプラノソロ。タイトルとシンプルなジャケに惹かれて選びました。

 

 

Rocket Science

Rocket Science

 

 ピーター・エヴァンスサム・プルータクレイグ・テイボーンとのカルテット。このメンバー、編成で面白くならないわけがないと思って買ったら、これが期待通りの傑作。

 

 

Boustrophedon (Ocrd)

Boustrophedon (Ocrd)

 

 以前JOEさんに教えていただいたもの。2004年録音のECM作。エヴァン・パーカー×ロスコ―・ミッチェル×ラージアンサンブルという凄まじい企画で、クレイグ・テイボーンやバリー・ガイポール・リットンも参加。大編成からエヴァンのソプラノが出てくる瞬間、猛烈に興奮します。

 

 

 

 

 

 

2016年3月21日 林栄一&加藤崇之@入谷なってるハウス

もう3日経ってますし、「最高だった」の一言で終わらせても良いのですが、一応簡単に記録を残しておきたくて。

 

 

2016年3月21日(月)林栄一&加藤崇之@入谷なってるハウス

林栄一(As)、加藤崇之(Gt, etc.)

 

 

なってるハウス、行ってきました。いわゆる「中央線ジャズ」界隈で長らく活躍しているお2人、林栄一さんは「ナーダム」、加藤崇之さんは「皇帝」の作曲者としても知られていますし、作曲作品や歌ものをやることも多い方々ですが、この日はガチンコのインプロでした。1stセットは2本、2ndセットは3本(2ndの1本目は、パリで十数年活動しているというアルトサックス奏者の女性が飛び入り参加)、存分に堪能しました。

 

林さんに関してはもはや言うことはありません。林ファンの私は、林栄一のあの音」を聴くだけでうれしくなってしまいます。この日ものっけから循環呼吸やマルチフォニックスといった特殊奏法も織り交ぜつつバシバシとキメまくっていて。2ndセットの2本目、加藤さんに煽られてアツくブロウしたところなんか脳汁出まくりました。林さんのアルトは独特の哀愁感も大きな魅力だと思っているのですが、この日は熱さ溢れるプレイも聴けて大興奮でした。

 


インプロネコ集会vol.21 林栄一+広瀬淳二+斉藤良一+伊藤啓太+井谷享志

ちょうど良い参考動画がないので、適当な林さんのインプロ動画を貼っておきます。

 

 

加藤さんも、何とも正体がつかめないというか、彼岸と此岸を行き来するような演奏で素晴らしかった。エフェクターを巧みにコントロールし、ぐねぐねとしたクソカッコイイフレーズや弦を平手で叩きつけて出した音を引き延ばしたり、ループさせたり。大小様々な金属(缶や灰皿、バケツっぽいもの等、20個くらい)をドラムスティックや金属製の棒で乱打したり。ちょっとAEOCを彷彿とさせるようなところもあって、愉しくも密度の濃い演奏でした。

 

なってるハウスでのソロ。来月地底レコードからガットギターソロのアルバムが出るそうですが、2~3年前にフルデザインから出た『七つの扉』もすごい作品でした。

 

 

古くから共演しているであろう2人、デュオで観るのは初めてでした。ライブ冒頭のMCで、林「このデュオ、初めてだっけ?」、加藤「いや、2~3回やってる」とのことでしたが、ぜひぜひまたやって欲しいです。事前の期待通り、2人の相性はバッチリでしたし、それでいて慣れ合いには陥らない、キレッキレの即興演奏でした。また次回、楽しみにしています。

 

 

映画『ヤクザと憲法』を観る

社会派ドキュメンタリ、かつ一級のエンタメ作品でした。

 

 

予告編の時点で既に面白い。 

 

 

ポレポレ東中野にて、観てきました。東海テレビの取材班が二代目東組二代目清勇会という「ヤクザ」、そして元山口組顧問弁護士の山之内幸夫氏に密着。40分テープ500本にも及ぶという素材を劇場上映用に96分に編集したもの(2015年3月30日に放映されたテレビ版は72分)。

私は大学院生なんですが、一応専攻が憲法学でして…。アメリカ憲法が専門なので、ツイッターのアイコンも「権利章典」(を使ったオーネット・コールマン『Crisis』)から取っていたりします。今年1月の上映開始以来ずっと観たいと思っていて、先日ようやく観に行ったのですが、これがもうめちゃくちゃに面白くて。以下で2つのポイントをあげてご紹介します。

 

 

①警察の権力行使のあり方に対する問題提起

この映画は、暴対法→各地の暴排条例の制定によるヤクザ取り締まり強化が何をもたらしたかということを鮮明に描き出しています。この動きによって、「ヤクザ」は反社会勢力の一員であるという理由で、銀行口座を作れない、子どもを幼稚園に入れられない、引っ越しや保険契約ができないといった「被害を受ける(清勇会・川口会長の言葉)」こととなりました。こう言うと、「そもそもヤクザなんてやってるのが悪い」というもっともらしい正論をぶつけられそうですが、そんな声に対して、この映画の中で川口会長は、「じゃあ誰が受け入れてくれるんですか」と応えています。社会生活を送ることが困難になってヤクザに拾われたような人たちを、さらに社会生活ができないように追い込んで、その先はどうするのかという問題が提起されているように思います。

誤解のないようにあらかじめ断っておくと、私は「ヤクザがいるおかげで治安が安定している」といったロマンティックな「ヤクザ必要悪論」に乗るつもりはありません。覚せい剤の売買やみかじめ料の徴収といった行為それ自体に対しては、規制の必要性も合理性もあるでしょう。

しかし、この映画の中でも出てくるのですが、暴排条例を利用し、保険契約をめぐるトラブルといったヤクザの"本業"と関係ないところで詐欺やら何やら理由を付けてとりあえず引っ張ったり、強引に家宅捜索したりといった権力行使のあり方が許容できるかというと、それは簡単に許容しちゃいかんと思うんですよ。(ちなみに、映画に登場する「ヤクザ」は基本的に東海テレビの取材に対して協力的なんですが、とある理由で家宅捜索に入った警官の取材班に対する態度が横柄というか、非常に「暴力的」に取材を制止していたのが印象的でした。)

これは「やっぱ警察クソだな。Fxxk the Police!!」で終わる話ではなくて、立川テント村事件堀越事件のような警察権力の不当な行使をどのように抑えることができるかという重大な問題を含んでいるのではないでしょうか。「ヤクザ」という分かりやすい「悪」に対しては、強引な手段による規制が簡単に正当化されてしまう危険性がある。こうした暴対法の問題をきちんと位置付けられている憲法学者って、実はあんまりいないんじゃないかと思うのです。 

 

 

何となく、貼っておきます。

 

 

②エンタメ作品としての「強度」

…とまあ、お堅い話はこの辺にして、この映画、エンタメ作品としてもめちゃくちゃに面白いんですよ。実際、私が劇場で観たとき、観客席から何度も笑いが起こっていました。

東海テレビの取材班、結構きわどいとこまでグイグイ質問したりして、観ているこっちがちょっとハラハラしちゃいました。夜中に何やら怪しい取引をしてお金を受け取ったらしき組員に、「今何やってたんですか?」とド直球の質問をしたり、予告編にも出ているところでは、 事務所の組員の生活スペースでキャンプ用品の袋を指さし、取材班「これってマシンガンとかでは…?」、組員「テレビの観すぎとちゃいますか?」なんてやり取りも。また、高校野球観ながら札束数えているヤクザ」とか、「思いっきり選挙協力しているヤクザ」とか、これマジでテレビ放映したの?ってシーンもたくさん。

ネタバレになるので詳細は伏せますが、一番笑ったのは、元山口組顧問の山之内弁護士関連のシーン。顧問弁護料の金額とか色々ぶっちゃけてますし、ベテラン事務員さんが最高にイカしたキャラで必見。思わず吹き出しました。

こうした面白いシーンは、長期間粘り強く、執拗に撮り続けた取材班の努力の結晶であり、それを96分という観やすいサイズにまとめあげたのは見事です。「生のヤクザ」が観たいって野次馬根性だけで観ても面白いので、「社会派なんてクソくらえ。社会の前に我に返れ」な方にもオススメです。4月以降に公開開始する劇場もあるようですが、3月で終わるところも多い(私が観たポレポレ東中野は3月25日まで)ので、ぜひ劇場で。

『ヤクザと憲法』公式HP

 

 

こちらも貼っておきましょう。すっげえ久しぶりに聴いた。