村井康司『JAZZ 100の扉 ―チャーリー・パーカーから大友良英まで』
きわめて誠実で良質なディスクガイド。
いりぐちアルテス004 JAZZ100の扉 チャーリーパーカーから大友良英まで (いりぐちアルテス 4)
- 作者: 村井康司
- 出版社/メーカー: アルテスパブリッシング
- 発売日: 2013/11/19
- メディア: 単行本
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評論家・編集者である村井康司さんが1945年以降のジャズのCDから好きなものを100枚(+200枚)選んだというディスクガイドを読みました。「好きなもの」といっても、いわゆる歴史的名盤からフリー、フュージョンまでバランスよく取り上げられています。
読んでみて、その選盤においても、内容のレビューにおいても、手垢の付いた”通説的ジャズ史”から自由である点がこの本の良いところだと思いました。たとえばビル・エヴァンスについては、超有名作である『ワルツ・フォー・デビー』をチョイスしつつ、ジョージ・ラッセルやレニー・トリスターノからの影響といった、彼の「過激さ」の部分にきちんと言及しています。その他、ジョン・ルイス、アート・ブレイキー、デイブ・ブルーベックといった単純化・矮小化されやすい演奏家たち、あるいはジャコ・パストリアスのような歪んだ神格化をされがちなミュージシャンについても、きわめて冷静かつ正確な評価をしていてほんとうに素晴らしい。過去のジャズ批評にしばしば感じてきたような不満を抱かされることもなく、「うんうん」と深く頷きながら楽しんで読むことができました。
もちろん、カーラ・ブレイや(後期の)アート・ペッパーについての記述など、個人的に同意しかねる点もなくはないですが、まあその辺は客観的な評価というよりは「好み」の問題でしょう。また、「2000年代以降のものがもっと載ってても良いんじゃないの?」とか、「アンソニー・ブラクストン(とその弟子たち)が載ってないのはどうなのよ」とか、不足を感じるところについても、100枚という限られた枚数を考えると仕方ないかと。
この本で新たに知った作品はほぼなかったのですが、平易でかつ読み手を惹きつける文章力も素晴らしいし、ジャズのディスクガイドとしては数少ない良書でしょう。最後に、菊地成孔さんがこの本に寄せた帯文がすさまじく的確だと思うので、以下に引用しておきます。
「雑味なし、エグ味なし、ナチュラルかつハイグレード。口当たりまろやかにして栄養満点。要するに<フツーに良い>。そんなジャズ批評があってたまるか!というアナタ、間違ってますぞ。そんなジャズ批評が足りなかったんでしょうが。コレ読むと解ります。」
≪おまけ・私的おススメのジャズ本≫
小説家の田中啓文さんがエリントンからペットボトル人間まで、「聴いたら危険!」なジャズを熱く紹介。堅苦しい評論とか批評というよりは、リスナーの視点から共感・同意できるポイントが非常に多いですし、この本で知ったミュージシャンも結構います。これはイチオシ。
200CD 菊地成孔セレクション―ロックとフォークのない20世紀 (学研200音楽書シリーズ)
- 作者: 菊地成孔
- 出版社/メーカー: 学習研究社
- 発売日: 2005/11/01
- メディア: 単行本
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著者である菊地成孔さんが「各ジャンルのエキスパートと対談しながら作ったディスクガイド」という企画本。ジャズは大谷能生さん、村井康司さん、沼田順さんと選盤してまして、この会議の様子が圧倒的に面白いのです。ジャズを知らない人にとって有用なディスクガイドになっているかは分かりませんが、ある程度ジャズを聴いてる人には抱腹絶倒のやり取りが満載。
私の知り得るかぎりもっとも刺激的で、面白く、 的確なジャズ批評を行った評論家が加藤総夫さんです。本業はお医者さんで、近年は評論活動は行っていないのが残念でなりません。絶版になってますがamazonのマケプレ等で入手することは難しくないと思いますので、未読のジャズファンの方には激しくおススメします。