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たぶん思ったことあんまりまちがってない

ジャズ アルバム紹介やライブの感想など 

『Jazz The New Chapter ロバート・グラスパーから広がる現代ジャズの地平』を読む

書籍

私の好みとはズレますが、大変な力作ですし、志・熱量は相当高いかと。

 

Jazz The New Chapter~ロバート・グラスパーから広がる現代ジャズの地平 (シンコー・ミュージックMOOK)

Jazz The New Chapter~ロバート・グラスパーから広がる現代ジャズの地平 (シンコー・ミュージックMOOK)

 

 

2月14日に発売されたムックをよみました。監修は気鋭のジャズ評論家である柳樂光隆さんで、その他の執筆陣は若手(?)のライターやレコードショップのバイヤーなどで、ジャズ専門ではない人も多く、なかなか面白い人選。 内容的には、タイトル通りロバート・グラスパー周りを中心にインタビューやディスクレビューが多数掲載されていて、(そんなものが実際にあるかどうかは別として)”2000年代以降のジャズシーン”の見取り図を描くことを試みた力作です。

 

イントロダクションで監修者の柳樂さんが書いていますが、従来のジャズ本は50~60年代のジャズ黄金期を中心に”ジャズ史”をなぞるものが多く、(一部の例外を除いて)80年代以降のジャズについては”一応押さえておく”レベルでしか取り上げてきませんでした。このムックの中でも、中山康樹さんが「ジャズが多様化した90年代以降は、従来のジャズ評論のように”ジャズのスタイルの変遷史”という形でタテの歴史を描けなくなった」というようなことを書いていて、そういった状況下でジャズ評論・ジャズジャーナリズムはある種行き詰まってしまったと言って良いでしょう。

こうした閉塞状況を打破するため、かどうかは分かりませんが、このムックはグラスパーやエスペランサ・スポルディングといった、ジャズ以外の音楽から受けた影響を自然に自分の音楽の中に取り込み、旧来の「ジャズと異ジャンルの融合」みたいなものとは違った形で表現している若い世代のミュージシャンを紹介することによって、水平に広がる”ジャズシーン”の現在を描いています。こういった試みをこれだけまとまった形で提示したジャズ本はなかったと思いますし(そもそもレディオ・ヘッドやJディラからの影響なんて従来のジャズ喫茶の頑固オヤジ系評論家には書けないでしょう)、インタビューの充実度など、熱量はハンパないです。

 

しかし、一通り読んでみて思ったのは、「結局このムックも従来のジャズ評論の枠から出てないんじゃないの?」ということでした。”ヨコの広がり”を丁寧に拾ったことは素晴らしいのですが(ワールドのコーナーは特に充実度が高いです)、トータルで”タテの歴史語り”からは抜けられていないように感じてしまいました。おそらくこれは意図的というか戦略的にやっている部分が多々ありそうですが、「これが最先端のジャズだ!!」という提示の仕方になっていて、各ミュージシャンが先人からどういう影響を受けたのかを描いている点は従来のジャズ評論と変わらないので、「いま、現在」に近いところで歴史語りをやっているだけ、と言えばだけなのではないでしょうか。

そして、個人的にはここで革新的とされているグラスパーの音楽の”新しさ”がいまいちピンと来ないのです。自分が影響を受けた音楽を表現の中に自然に融和させたミュージシャンというのはジャズの初期からいたはずで、グラスパーは彼らとどう違うんでしょうか。ブロードウェイのミュージカルや映画音楽、民族音楽、日本で言えば歌謡曲なんかが自然に溶け込んだジャズなんていうのはいくらでもあるわけで、グラスパーらは影響を受けたものがポストロックだのクラブミュージックだのといった比較的現在に近いものになっただけなのでは?

 


Robert Glasper Experiment featuring Erykah Badu ...

グラスパーが新しいとすれば、ムック中の柳樂・村井・原の鼎談で語られているような「スムースすぎる」点なのかも。ドルフィーの異次元感にやられてジャズにハマった私には、こうしたスムースさは「引っ掛かりがなくてツマラン」と思えてしまうのですが…。

 

個人的な好みはさておき、”タテの歴史語り”が、物心がついた頃からネットを介して膨大なアーカイブに自由にアクセスできる環境で育った今の10代・20代に届くのか、ということが気になっています。1989年生まれの私より下の世代、今の高校生や大学生(マニア系ではなくフツーの音楽ファン)と音楽の話をすると、ミュージシャンの影響関係や特定のジャンルの歴史に興味がないリスナーが相当数いるように感じます。たとえば、知り合いのフュージョンファンの大学生は(かつての)カシオペアやスクエアが好きなのですが、それらのバンドがどこから影響を受けたかは全然知ろうとしないし、フュージョンの歴史を追いかけてもいません。ウェザーリポートも知らないし、そこからショーターを経由してマイルスにさかのぼるといったこともしない。私自身はドルフィーからミンガスに行って、マイルス、モンク、エリントンetc.芋づる式に聴いていきましたし、蒐集癖があるタイプの若者はいつの時代も一定数いるでしょうが、膨大なアーカイブを網羅的に聴こうとする人よりも、たまたま耳に入ってきた中から自分にとって気持ち良いものだけを聴くという若者が多いのではないでしょうか。まあ、根拠のない憶測に過ぎませんが。

柳樂さんを始めとする執筆陣の方々は、おそらく音楽専門誌が元気だった時代(菊地成孔さんのギャグを借りるならば「ジャズライフが平行四辺形だった時代」)をリアルタイムで経験している方が多そうです。そういった30代以上の感覚で書かれたものが、今の10代・20代に果たして伝わるのでしょうか。「ふーん」と受け流されてしまわないのでしょうか。私のような性根の腐った(フリー)ジャズファンはそもそもこのムックのターゲットではなさそうなのでピンと来なくても問題ないような気がしますが、フツーの若者に届くかどうかは大問題なのでは。柳樂さんたちが挑戦している壁は相当にデカいように思います。

 

 

今回もグダグダと書き連ねてしまいましたが、グラスパー周辺が刺さるような音楽ファンにとっては有益なディスクガイドになってると思いますよ。フリー系は予想通りほぼスルーされてますが、字数の制約やコンセプトの範囲内ではかなり幅広く拾えていると思います。「ピーター・エヴァンスが載ってないのは絶対に絶対に絶対に絶対におかしい!!」とか、「ジョン・イラバゴンみたいなフリーとコンテンポラリーの境目関係ないってタイプはもっと載ってても良いのでは?」とか、個人的に思うことは多々ありますが、コリン・ステットソンやゲタチュウ・メクリヤなんかをちゃんと紹介しているのは素晴らしいです。

上にも書きましたが、インタビューも相当に充実しています。ただ、「新世代のジャズミュージシャン」よりも、ジム・オルークさんみたいな、「ベースはジャズじゃないけどジャズミュージシャンとの共演も多い人」にジャズのことを聞き出した方が、もっと話が立体的になったのではないでしょうか。まあ、こんな感じで気になる点を言い出したらキリがないので、この辺でやめときましょうか(笑)。

 

 

 

≪関連動画など≫


Esperanza Spalding - "Cinnamon Tree" (2012 ...

すっごく良く出来てるとは思うのですが、やっぱり惹かれないかなあ…。

 


Zhivago - OJM + KURT ROSENWINKEL - YouTube

このあたりはもう中堅って感じですね。なかなかカッコイイ。古いタイプのジャズファンでもこれは抵抗なく聴けるって人が多そうな気が。アンサンブルとソロのバランスの問題なのかな?

 


Peter Evans Quintet - "Stardust" - YouTube

「ピーター・エヴァンスから広がる現代ジャズの地平」もあるはず。というか、無数の「地平」が乱立しているのが今の状況のような気がします。「Jazz The New Chapter"s"」とでも言いましょうか。