たぶん思ったことあんまりまちがってない

ジャズ アルバム紹介やライブの感想など 

石塚真一『Blue Giant』2巻を読む

ハゲしいジャズ…?

 

BLUE GIANT 2 (ビッグコミックススペシャル)

BLUE GIANT 2 (ビッグコミックススペシャル)

 

 

ジャズ漫画、『Blue Giant』の2巻を読みました。 1巻を読んだときには、完全に独学でサックスを演奏する主人公が川原で大音量・無軌道に吹きまくる様を見て、「どう見ても阿部薫じゃん!」と思ったのですが、作中に登場するアルバムがハードバップの名盤ばかりで、いまいちどういう音なのか想像できずにモヤモヤしたのでした。

この2巻では、主人公がサックスの師匠と出会って理論的に演奏技術を習得していく様が描かれ、ヒロインが登場したり、級友やバイト先の店長との交流なども経て人間的に成長していくという、かなり王道の青春漫画展開。回想なども織り交ぜながら描かれる様々な人間ドラマは非常に丁寧ですし、師匠とのレッスンシーンもなかなかワクワクさせられる修行&成長物語になっています。

 

全体として前巻以上に楽しんで読めたのですが、やっぱりリアリティのラインはよく分からんですね。主人公のジャズ観を表すものとして「ハゲしい」という言葉が印象的に何度も使われるんですが、彼のアイドルはベニー・ゴルソンハンク・モブレー、(初期の)コルトレーンだったりするわけです。私もジャズからある種の「ヤバさ」を感じ取ってどっぷりハマっていったので、「単なるお洒落な気取った音楽じゃないんだ!」っていう主人公の気持ちにはすごくすごく共感するのですが、日常的に情報量の多い音楽に囲まれた今時の高校生がゴルソン聴いて「すっげえ!ハゲしい!」って感動するかっていうと、うーんって思っちゃうわけです。

 


Moment's Notice - YouTube

作中で主人公がヒロインにこれを聴かせるシーンが。私も好きですが、「ハゲしい」ってのはどうでしょうか。

 

私が高校生の頃に「実はジャズってヤバい音楽なんじゃないか?」って思い始めたのは、ドルフィーのファイブスポットを聴いてからでした。それと前後してコルトレーンやマイルス、エヴァンスなんかも聴いていましたが、正直「カインド・オブ・ブルー」とか「ジャイアント・ステップ」は全然ピンと来ませんでした。当時はとにかく過激な音楽に憧れていて、兄の影響もあってノイズやらメタルを聴いてましたから、王道のジャズ名盤では刺激が足りなかったのです。そんな中、ジャズ聴き始めの頃に直感的にこれはヤバいと思ったのは、ドルフィーとミンガスくらいだったと思います。それと、いまいちよく分からないけど何か引っ掛かると思ったのがモンク。コルトレーンやマイルスに本当にハマった頃には、ジャズを聴き始めてから数年経ってました。

ノイズを聴くほど極端じゃなくても、今の高校生が聴いてるポップスとかって、ある意味では王道のジャズより「ハゲしい」と感じられるものが多いんじゃないでしょうか。アニソンとかアイドルソングなんて、私はちらっと耳にする程度ですが、恐ろしく情報量が多くて過剰なものも多いっぽいですし。いずれにせよ、このBlue Giantの主人公のリスナーとして描かれている部分と、プレーヤーとしての過激で鮮烈な描写(かなりファンタジック)とがしっくりこないように感じてしまっているわけです。

 

あるいは、ベタなハードバップの名盤ばっかり出てくるのは、読者に分かりやすいようにっていう編集者の意向があったりするのかも。たとえば主人公が好きな女の子に初めて聴かせるのがデヴィッド・S・ウェアだったりしたら、それはそれでどうかしちゃってる感じになりますし、読者にはまるで伝わらないでしょうから。しかし、結果的に選盤がなんて言うかハードバップ至上主義の頭の硬いオヤジみたいになっちゃってるのが何だかなあと思うんですよねえ。それでも「ハゲしいのがジャズ!」って言うんなら、主人公が聴いてるのがファラオ・サンダースとかならまだ共感できたのかな。

 


You've Got To Have Freedom - live - YouTube

後半には宇宙一かっこいいメンバー紹介が。ちなみに、宇宙で二番目にかっこいいのはウェアの「リナンシエーション」(異論は認める)。

 

 

またまたグダグダな記事になってしまいましたが、この2巻の巻末では主人公が功成り名を遂げてから何か事件が起こるようなことも匂わせていたりして、何だかんだで続きは気になっています。3巻以降もとりあえずは追いかけていくつもりです。