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エリントンのススメ

最近デューク・エリントンにハマっていまして、今日も朝からずっと自室でレコードを聴いています。で、特に新しい発見や何かがあるわけでもないのですが、「エリントンって名前はよく聞くけどあんまり知らない」って感じの人に向けて、私的「エリントンのススメ」を書いてみようかと思います。

 

 

エリントンの魅力

 

①エリントンの"音色"

私が思うエリントンの最大の魅力は、「ハーモニーのヤバさ」です。エリントンと言えば、多くのジャズミュージシャンから「ジャズの父」と称えられ、ジャズの王道ど真ん中にいそうな感じがしますが、そのハーモニーの感覚は相当に「ヘン」だと思うんです。普通のジャズとは全然違う。特にバリトンサックス(ハリー・カーネイ)やクラリネットジミー・ハミルトンら)の使い方が独特で、これが一度ハマったらなかなか抜け出せなくて。

 


Duke Ellington -- Silk Lace

 

エリントンの言葉に、「私の楽器はオーケストラ」というものがあります。エリントン楽団には、前述のハリー・カーネイやジミー・ハミルトン、ジョニー・ホッジスポール・ゴンザルヴェスレイ・ナンスなどなど、優れて個性的なプレーヤーが大勢いましたが、その時々のメンツによってアレンジを変えていたようです(楽器名ではなく演奏者の個人名を記した楽譜もあったとか)。たとえば、「この曲はジョニー・ホッジスの音色がなきゃダメだよね」みたいな曲がたくさんありまして、彼ら"エリントニアン"たちは、もはやエリントンのサウンドの一部となっていたといえるでしょう。

こうしたエリントニアンたちを用いた独特なアンサンブルやソロの総体を、エリントンにしかない"エリントンの音色"と呼ぶとするならば、ジョン・ブッチャー広瀬淳二の演奏を聴くときにサックスの音色一発でぶちのめされてしまうように、最近はこの"エリントンの音色"を聴くだけで条件反射的に気持ちよくなってしまっています。

 

 

 ②作曲家エリントン

エリントン・ナンバーの多くがスタンダードとなっており、無数のカバーや「プレイズ・エリントン」ものが存在することは、ジャズファンなら嫌でも知っていることでしょう。 一般的にはセロニアス・モンク『Plays Duke Ellingtonあたりが有名かと思いますが、意外なところではマッツ・グスタフソンなんかもエリントン集を出しています(元々限定LPだったのが、現在は他の作品とまとめて『Torturing The Saxophone』というアルバムとしてリリースされています)。

 エリントンにはイイ曲がほんとにたくさんあって、特に「In a Sentimental Mood」「Sophisticated Lady」といったバラードは、歌いにくい(難しい)のに耳馴染みが悪いわけではなく、むしろすごく美しいというのが面白いと思うんですよね。

 


Ella Fitzgerald - In a sentimental mood - YouTube

これを軽々と歌いこなすエラ・フィッツジェラルドのすごさ。 

 

また、エリントンは「リベリア組曲」「極東組曲」「女王組曲」「シェイクスピア組曲」「ハーレム組曲」「コントロヴァーシャル組曲」「ニューオリンズ組曲」などなど、大量の組曲を作っていて、そのどれもが素晴らしいです。「エリントンの組曲にハズレなし」と誰かが言っていたと思いますが、まったく同感。

 

 

③ピアニスト・エリントン

有名なチャールズ・ミンガスマックス・ローチとの『Money Jungle』で聴けるように、エリントンのピアノには「意外と豪快」という側面があります。小編成以外でも、ポール・ゴンザルヴェスが悠々と余裕のソロを取っている後ろで実はガンガン鍵盤を叩いていたりして、すごく面白いです。

また、エリントンは、美しく澄み切った、ある種の神聖さすら感じさせるようなピアノソロを弾くときがあって、それがたまらなく好きなのです。

 


Duke Ellington, Lotus Blossom (solo) (Strayhorn ...

エリントンの片腕、ビリー・ストレイホーンの追悼作『...and His Mother Called Him Bill』に収録されている演奏。録音が終わり、メンバーが帰り支度を始めた頃にエリントンがソロで弾き始めたとか。

 

 

エリントンにハマったのはここ1~2年のことなので未聴のものも多いんですが、いま私の思っているエリントンの魅力は、だいたいこんなところです。他にも、意外と前衛的なもの(Sacred Concertシリーズなど)も作っているとか、謎のエキゾチシズムとか、面白いところはたくさんあるので、興味を持った方はぜひぜひ聴いてみてください。

 

 

これから聴き始める人への推薦盤

 

Ellington Suites

Ellington Suites

 

エリントンの組曲を3つ収録。エリザベス女王のために1枚だけプレスされ、エリントンが亡くなるまで複製が許されなかったという「女王組曲は、エリントンの組曲の中でも特に完成度が高いと思います。5曲目、「Single Petal of Rose」がとんでもなく美しい。

 

Afro-Bossa

Afro-Bossa

 

エリントン・エキゾチシズムの極北のような作品。だって「アフロ 」で「ボッサ」ですよ。よく考えたらめちゃくちゃな気がしますが、中身は素晴らしい。上に動画を貼った「Silk Lace」もこのアルバムに収録されています。

 

Piano Reflections

Piano Reflections

 

エリントンのピアノトリオ 。『Money Jungle』も名盤ですが、こちらの方が聴きやすいかも。

 

 

オススメの本

 

ジャズ最後の日

ジャズ最後の日

 

 

ジャズ・ストレート・アヘッド

ジャズ・ストレート・アヘッド

 

 エリントンは「ジャズ」を演奏していたのではなく、自分の美意識に合致した「サウンド」を作り上げるための「装置」として楽団を所有していたのでは……といった、めちゃくちゃ面白いエリントン論が展開されています。モンクやドルフィーについての記述も興味深く、この2冊が絶版になっているのは本当にもったいないと思います。