たぶん思ったことあんまりまちがってない

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いーぐる連続講演 第570回 BYG特集(解説:須藤輝、吉田隆一)

2日続けてのジャズ喫茶。

 

2015年9月26日(土)いーぐる連続講演 第570回 「BYG特集」

解説:須藤輝(ライター/編集者)、吉田隆一(バリトンサックス奏者)

 

ジャズ喫茶いーぐるで行われた講演に行ってきました。今回はフランスのレーベルBYGの特集。過去2回行われた須藤・吉田コンビによるESP特集の講演がめちゃくちゃ面白かったので、今回も期待していーぐるに向かいました。BYGの作品はそこそこ聴いていて、AEOCアーチー・シェップサニー・マレイといった黒人前衛ジャズの名盤を結構出していたレーベルというイメージ。それをいーぐるのオーディオでまとめて聴けるっていうだけで嬉しいなと。

 

まずは店主・後藤雅洋さんのあいさつ。「ジャズ喫茶を始めて2年くらいしてBYGが登場し、一気に大量にリリースしたので驚いた記憶がある。AEOCも随分聴いたが、玉石混交で"はてな?"というものもあった」というようなことをおっしゃっていました。ESP特集の時にも思いましたが、後藤さんってフリージャズも結構聴かれてるようですね。しかもリアルタイムで。(ちなみに、講演が始まる直前に店内でかかっていたのは、Christian Scott『Christian aTunde Adjuah』でした)

講演の初めに、須藤さんがBYGというレーベルの成り立ちについて解説。1967年にパリで設立、69年から71年にかけてフリージャズのActuelシリーズをリリースしていたとのこと。69年にアルジェリアで行われたパン・アフリカン・フェスティバルに出演したシェップやアラン・シルヴァらをパリへ連れていき、10日間で15枚分一気に録音したなんていう話も。

その後は、計16枚のレコードをかけつつ、須藤・吉田コンビが解説やツッコミなどを加えていくという流れ。一応有料のイベントだったので、講演内容をすべて書き起こすことはしませんが、気になった盤や面白かったコメントをいくつかピックアップして紹介させてもらおうと思います。聴きながら適当に取ったメモを基に書くので、間違いがあったらすみません。

 

 

最初にかかったのが、BYG Actuelの記念すべき1枚目、ドン・チェリーエド・ブラックウェルの名盤『Mu』

Mu Pt 1 & 2/Orient

Mu Pt 1 & 2/Orient

 

 ハン・ベニンクの入った『Orient』もセットでCD化されています。お得!

 


Don Cherry - Brilliant Action - YouTube

これは前からかなり好きです。小編成のエド・ブラックウェルはほんとうにイイ。

 

(講師のコメント・抜粋)

吉田:ドン・チェリー楽器がすごく上手い。こういうタイトなデュオだとそれが良くわかる。

須藤:オーネットやアイラーとのフリージャズから、いつの間にかロハスへ。『Ku:nelとかで特集される感じ。

吉田:"偽民族音楽"感。ドン・チェリーは最初っからうさんくさいから、それも許される。

須藤:民族音楽的な方向は、フリージャズがアメリカで行き詰った先の1つの突破点のようなものだったのかもしれない。でも、こんなことができたのはドン・チェリーだけ。

 

 

続いて、2曲目はAEOCの『Jackson in Your House』から「Get in Line」

Jackson in Your House: Message to Our Folks (Reis)

Jackson in Your House: Message to Our Folks (Reis)

 

これも『Message to Our Folks』とセットで出てますが、2枚とも大好きです。マラカイ・フェイヴァースのベースが効いてます。

 

(コメント抜粋)

吉田:AEOCは"楽器の記号性"を活かすのが上手い。ドン・チェリーとは違った上手さ。

須藤:AEOCは、前衛的だがトラディショナルなのが特徴。

 

 

私の大好きなサニー・マレイの『Sons of Africa』を挟んで、4曲目はシェップの『Yasmina, a Black Woman』から「Yasmina」。

Yasmina a black woman / Poem for Malcolm

Yasmina a black woman / Poem for Malcolm

 

これも傑作『Poem for Malcom』とセット。

 

(コメント抜粋)

吉田:シェップの音はすごい。ファットリップという独特な奏法で、安定しないが音がとにかくデカい。「自分の楽器で色々なことがやりたい」という欲を捨て、この奏法を選択したシェップの勇気。尊敬している。

須藤:本当はジャズ、ハードバップがやりたかった人だと思う。だからB面でハンク・モブレーと「Body & Soul」をやっていたりするのでは。

 

 

その後も10枚以上ぽんぽんと聴いていき、吉田さんによるサックス奏者の使用楽器の解説があったり、ポール・ブレイはジャズ界一の"スワッパー"」(須藤)といったキラーフレーズも飛び出したりして、2時間半たっぷりと楽しみました。他に、「ヨアヒム・キューンカール・ベルガ―は米独を繋ぐ役割を果たしている」という須藤さんの指摘や、「デューイ・レッドマンはブリティッシュ・ジャズのプレーヤーと共通の資質を持っていると思っていて、現在研究中」という吉田さんのコメントも。まったく聴いたことがなかったもの(Acting TrioAme Son)もかかりましたし、大満足でした。

 

 

…実は、約2年前に須藤・吉田コンビのESP特集のことを当ブログに投稿したとき、↓こんなことを書いていました。

 

こういったトーク企画、いーぐるやベルサンで続けてやってくれると本当に嬉しいです。レーベルなら「BYG actuel特集」とか「Black Saint / Soul Note特集」なんかどうでしょうか。「ロフトジャズ特集」や「AACM特集」なんかも誰かやってくれないかなあ。このあたり、あまりに語られてなさすぎるし、再評価すべきものがたくさんあると思うのですが・・・。

いーぐる連続講演 ESP特集(解説:須藤輝、吉田隆一) - たぶん思ったことあんまりまちがってない

 

いやいや、まさか実現するとは。講演の終わり際に、須藤・吉田「次はFMP特集?それだとブロッツマン特集になるかな」みたいなことをおっしゃってましたが、個人的には、やっぱりAACM特集は是非やって欲しいですね。ちょうど今年50周年ですし、ケン・ヴァンダーマークらフリー・前衛寄りの音楽家だけでなく、ジェイソン・モランのような人気のあるコンテンポラリー系の人たちに与えた影響も無視できないと思うんですよ。ヴィジェイ・アイヤーなんて「Little Pocket Size Demons」のカバーしてるわけで…。ヘンリー・スレッギルロスコー・ミッチェルはバリバリ現役だし、アンソニー・ブラクストン門下生は大活躍しているし、マタナ・ロバーツらの黒人ジャズの継承・提示の仕方も興味深いし、色んな切り口で語れると思うんですよね。まあ、ESPやBYGのようなネタ成分には乏しいですが…。

もちろん、FMPやブロッツマンの特集でも都合のつくかぎり参加したいなと思ってます(今日の講演も、ブロッツマン・シカゴ・テンテットのTシャツ着て行きましたし・笑)。次回以降も期待してます!