たぶん思ったことあんまりまちがってない

ジャズ アルバム紹介やライブの感想など 

2017年間ベスト

毎年恒例、年間ベストをまとめておきます。今回は特に印象に残ったものを順不同で10枚チョイス。アルバムタイトルをクリックするとbandcampや通販ページ等に飛ぶようにしてありますので、気になった方はぜひ。

 

 

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Roscoe MitchellBells For The South Side

2017年はジャズを聴き始めてから何回目かの「ロスコー・ミッチェル熱」にやられた年でした。Black Saint & Soul Noteのロスコー・ミッチェル箱も買ってしまったし、ツイッターで「1日1枚ロスコー・ミッチェルを聴いて短く感想を書く」といったこともやりました。そのきっかけとなったのがこのECM盤。ロスコーの4つのトリオが一堂に会し、みんなでベルを鳴らすという狂った企画。今年改めてロスコーの作品を大量に聴き返して気づいたのですが、この人数十年にわたってベルを鳴らし続けてますね。謎です。本作は2枚組で、それぞれのトリオによる演奏と全員での演奏を聴くことができます。ECM録音による美しいベルの音に心洗われたり、ロスコーの呪術的ソプラノに「やっぱどうかしてるなこの人」と思っているうちに、最後の曲で突然ふつうのジャズが始まって面食らったり。1940年生まれ、77歳のロスコー・ミッチェル。まだまだ健在です。

 

 

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DKV TrioLatitude 41.88

シカゴのマルチリード奏者、ケン・ヴァンダーマークのトリオ最新作。20年以上活動しているこのトリオ、初期にはフリージャズ名曲カバーなんかもやっていましたが、最近は即興中心。クソかっこいいリフでグイグイ盛り上げていく手法にもはや新しさは感じないのだけれど、どうしたって血は滾ってしまいます。反復。グルーヴ。個の表出。こういうのが自分の好きな"ジャズ"なんだよなあとしみじみ。

 

 

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泉邦宏近未来原始人イズミンゴス

「全身音楽家」泉邦宏のソロ。藤井郷子オケへの参加、足でドラムを叩きながら数本のサックスを同時に吹くソロ演奏、ギター弾き語りの歌モノ、塩ビ管製の尺八でのインプロなどなど、多彩な活動を展開している泉さん。自主レーベルからのリリースも精力的に行なっていますが、この盤は特にごった煮的に色々なものがぶち込まれていて、泉ワールドが爆発しています。チープな電子音、「しゅわしゅわ」「みんみん」といった謎ボイスや唇を震わせる音、口琴、生活音コラージュ…。オーネット・コールマンのプライムタイムを思わせるトラックも。これがイロモノ・飛び道具的な面白さだけではなく、カッコイイんですよ。サックス2本吹きと足ドラムで切々と演奏される「レクイエム」なんて感動的ですらあります。

 

 

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Little BlueSummer Lonely

山下洋輔トリオ編成」=ピアノ、アルトサックス、ドラムのフリージャズ2枚組。1枚目はキアズマやモンク、クルト・ワイル、オリジナルなどのコンポジションもの。「大名行進曲」なんて珍しい曲もやってます。Mr. Lonley Blueこと松本崇史さんのイかれたアルトがドープ。ラウンドミッドナイトとかマジで何考えてるのか分からない演奏していて、すごくすごいです(語彙力)。いつもながらスガダイローさんのスタンダード解釈もぶっ飛んでいて面白い。2枚目は爆裂するパワー系インプロ/フリー。ピアノの超高速打鍵とアツく爽やかに疾走するドラムがとても気持ち良い。1枚目も2枚目も素晴らしく、2枚組にして大正解だと思います。

 

 

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Ton-Klami – Prophecy of Nue

奇しくもこれも山下トリオに近い編成。アルトサックス姜泰煥、ピアノ佐藤允彦、パーカッション高田みどりの1995年ライブ録音がリトアニアのNo Business Recordsからリイシューされました。循環する倍音たっぷりの姜さんのアルトを聴いているだけでも素晴らしいのですが、ピアノ、パーカッションと三者でどんどん展開/変化していく音に耳を傾けていると、グイグイ引き込まれてしまいます。意識が持っていかれる。Jazz Tokyoのレビュー(by齊藤聡さん)で「ときに、トリックスターのように暴れてみせる」と書かれている高田みどりさんの存在が良いアクセントになっていると思います。

 

 

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トリオ深海ノ窓 目ヲ閉ジテ 見ル映画

ソロアルバムLotusを年間ベストに選んだこともある吉田野乃子さんのトリオ。アルトサックス、ピアノ、フレットレスベースという編成。ジョン・ゾーンネッド・ローゼンバーグの薫陶を受けており、個人的にはハードコア/アヴァンギャルドなプレイの印象が強い吉田さん。これまでのLotusやペットボトル人間の諸作からもジャズ業界用語で言うところの"歌心"を随所に感じてきましたが、この盤では見事に歌い上げる吉田さんのアルトを堪能できます。そして、美しいメロディを奏でつつも、時折フリーキーにぶちかます場面があって、そのブチ切れる瞬間が本当にたまらない。しびれます。このトリオは惜しくも2017年末で活動休止してしまいましたが、いつか復活してくれることを願っています。

自主制作盤なので注文は吉田野乃子さん本人(野乃屋レコーズ)へ。上記アルバムタイトルをクリックするとメールソフトが起動します。

 

 

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今井和雄 – the seasons ill

今井和雄轟音ギターソロのライブ録音。詳しくは過去記事参照。こういった音楽がきちんと録音され、フィジカルでリリースされることの意義は非常に大きいと思います。もちろん資料的価値に留まらず、圧倒的な演奏を聴くことができるので、未聴の方はぜひ。

 

 

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Minchanbaby – たぶん絶対
今年1番聴いた回数が多いのはこれかもしれない。だいたい死にたい感じの漂うリリックに粗悪ビーツのトラックも相俟って、明るく楽しい音楽ではありません。しかし、言葉のチョイスやビートへのハメ方も混みでライミングがめちゃくちゃ気持ち良いんですよ。「財布は要らねぇ、Wi-Fiだけ探して たどり着くsagacity」なんて思わず口ずさみたくなってしまう。それに、Minchanbabyは中毒性のあるフックを作ることにかけては右に出る者のいない天才だと思います。「蛇田ニョロ(ニョロ)、蛇田ニョロ(ニョロ)」とか、「肉喰え肉、肉喰え肉」とか延々と頭の中でループして困りました。

 

 

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TIm Bern's SnakeoilIncidentals

ティム・バーンのバンド、Snakeoilの5作目。夏に発売されていたのを年末になってようやく聴き、1発でぶっ飛ばされました。ティム・バーンといえばグネグネとした変態的なラインのアルトが特徴的ですが、本作ではピアノやギター、ドラムなど他のメンバーがそれと並行して動いたり、微妙なズレによってダイナミクスを生み出したりすることで、非常に洗練された、かつ迫力のあるグループ表現が完成していると思います。中でもチェス・スミスのドラムは聞き物。

 

 

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鈴木昭男 / John Butcher – Immediate Landscapes

創作楽器などを駆使する鈴木昭男(本作ではpebbles, glass plate, sponge, pocket bottle, voice ANALAPOS, brass plate, cardboard box, wood screws, bamboo stick, metal plate, noise whistle, swizzle sticksとクレジット)と、サックスのジョン・ブッチャーによる即興デュオのライブ録音。1〜5曲目は2006年にスコットランドで行われた演奏の記録で、ジョン・ブッチャーが音響特性の際立った場所で演奏するという企画の一環らしいです。地下貯蔵所、霊廟、巨大洞窟、氷室、石油貯蔵タンクの計5箇所での演奏が収録されています。6曲目は2015年に東京で行われたFtarriフェスティバルの演奏。このFtarriフェスティバルは2日間にわたって開催され、私はこの盤に収録されているのと別の日に観に行きました。そのときは鈴木昭男さんの演奏にあまりピンと来なかったような記憶があるのですが、本作を聴いて驚きました。会場の音響特性のゆえという部分もあるかもしれませんが、単純に出ている音がめちゃくちゃ豊かに感じるし、ブッチャーからドンドン新しい音を引き出しているような。これまでスルーしてきた鈴木昭男作品を色々と聴いてみたいと思わされました。

 


以上10枚でした。zu-ja (@rifuzuja) | Twitterを始めてから更新頻度が激減していた本ブログ、今年は全然書けませんでしたが(2016の年間ベストを除くと3回しか更新していません…苦笑)、さて来年はどうなるか。1〜2週に1本くらいは記事投稿しようかなとか考えてますが、まあ来年の話をすると鬼が笑うらしいので、これ以上はやめておきます。
ツイッターで絡んでくださった方々、ライブ会場でお会いした方々、いるのか分かりませんがこのブログを読んでくださった方々。感謝します。2018年もみなさんの上に祝福がありますように。

 


Eric Dolphy 1963 - God Bless The Child