たぶん思ったことあんまりまちがってない

ジャズ アルバム紹介やライブの感想など 

映画『ヤクザと憲法』を観る

社会派ドキュメンタリ、かつ一級のエンタメ作品でした。

 

 

予告編の時点で既に面白い。 

 

 

ポレポレ東中野にて、観てきました。東海テレビの取材班が二代目東組二代目清勇会という「ヤクザ」、そして元山口組顧問弁護士の山之内幸夫氏に密着。40分テープ500本にも及ぶという素材を劇場上映用に96分に編集したもの(2015年3月30日に放映されたテレビ版は72分)。

私は大学院生なんですが、一応専攻が憲法学でして…。アメリカ憲法が専門なので、ツイッターのアイコンも「権利章典」(を使ったオーネット・コールマン『Crisis』)から取っていたりします。今年1月の上映開始以来ずっと観たいと思っていて、先日ようやく観に行ったのですが、これがもうめちゃくちゃに面白くて。以下で2つのポイントをあげてご紹介します。

 

 

①警察の権力行使のあり方に対する問題提起

この映画は、暴対法→各地の暴排条例の制定によるヤクザ取り締まり強化が何をもたらしたかということを鮮明に描き出しています。この動きによって、「ヤクザ」は反社会勢力の一員であるという理由で、銀行口座を作れない、子どもを幼稚園に入れられない、引っ越しや保険契約ができないといった「被害を受ける(清勇会・川口会長の言葉)」こととなりました。こう言うと、「そもそもヤクザなんてやってるのが悪い」というもっともらしい正論をぶつけられそうですが、そんな声に対して、この映画の中で川口会長は、「じゃあ誰が受け入れてくれるんですか」と応えています。社会生活を送ることが困難になってヤクザに拾われたような人たちを、さらに社会生活ができないように追い込んで、その先はどうするのかという問題が提起されているように思います。

誤解のないようにあらかじめ断っておくと、私は「ヤクザがいるおかげで治安が安定している」といったロマンティックな「ヤクザ必要悪論」に乗るつもりはありません。覚せい剤の売買やみかじめ料の徴収といった行為それ自体に対しては、規制の必要性も合理性もあるでしょう。

しかし、この映画の中でも出てくるのですが、暴排条例を利用し、保険契約をめぐるトラブルといったヤクザの"本業"と関係ないところで詐欺やら何やら理由を付けてとりあえず引っ張ったり、強引に家宅捜索したりといった権力行使のあり方が許容できるかというと、それは簡単に許容しちゃいかんと思うんですよ。(ちなみに、映画に登場する「ヤクザ」は基本的に東海テレビの取材に対して協力的なんですが、とある理由で家宅捜索に入った警官の取材班に対する態度が横柄というか、非常に「暴力的」に取材を制止していたのが印象的でした。)

これは「やっぱ警察クソだな。Fxxk the Police!!」で終わる話ではなくて、立川テント村事件堀越事件のような警察権力の不当な行使をどのように抑えることができるかという重大な問題を含んでいるのではないでしょうか。「ヤクザ」という分かりやすい「悪」に対しては、強引な手段による規制が簡単に正当化されてしまう危険性がある。こうした暴対法の問題をきちんと位置付けられている憲法学者って、実はあんまりいないんじゃないかと思うのです。 

 

 

何となく、貼っておきます。

 

 

②エンタメ作品としての「強度」

…とまあ、お堅い話はこの辺にして、この映画、エンタメ作品としてもめちゃくちゃに面白いんですよ。実際、私が劇場で観たとき、観客席から何度も笑いが起こっていました。

東海テレビの取材班、結構きわどいとこまでグイグイ質問したりして、観ているこっちがちょっとハラハラしちゃいました。夜中に何やら怪しい取引をしてお金を受け取ったらしき組員に、「今何やってたんですか?」とド直球の質問をしたり、予告編にも出ているところでは、 事務所の組員の生活スペースでキャンプ用品の袋を指さし、取材班「これってマシンガンとかでは…?」、組員「テレビの観すぎとちゃいますか?」なんてやり取りも。また、高校野球観ながら札束数えているヤクザ」とか、「思いっきり選挙協力しているヤクザ」とか、これマジでテレビ放映したの?ってシーンもたくさん。

ネタバレになるので詳細は伏せますが、一番笑ったのは、元山口組顧問の山之内弁護士関連のシーン。顧問弁護料の金額とか色々ぶっちゃけてますし、ベテラン事務員さんが最高にイカしたキャラで必見。思わず吹き出しました。

こうした面白いシーンは、長期間粘り強く、執拗に撮り続けた取材班の努力の結晶であり、それを96分という観やすいサイズにまとめあげたのは見事です。「生のヤクザ」が観たいって野次馬根性だけで観ても面白いので、「社会派なんてクソくらえ。社会の前に我に返れ」な方にもオススメです。4月以降に公開開始する劇場もあるようですが、3月で終わるところも多い(私が観たポレポレ東中野は3月25日まで)ので、ぜひ劇場で。

『ヤクザと憲法』公式HP

 

 

こちらも貼っておきましょう。すっげえ久しぶりに聴いた。