たぶん思ったことあんまりまちがってない

ジャズ アルバム紹介やライブの感想など 

今井和雄 the seasons ill

脳天直撃。

 

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今井和雄(Gt)

 

今井和雄さんのエレキギターによる大音量での即興演奏を収めたライブ盤。正式な発売日は「2017年4月16日」ですが、4月1日のレコ発ライブで入手しました。水道橋Ftarriの通販でも既に入手可能で、4月15日までは「先行販売特価1,200円」とのこと。

本作には2本のライブ演奏が収録されていて、それぞれ「Delay 160925」「Delay 160407」というタイトルが付いています。6ケタの数字は録音年月日で、ディレイを用いた即興演奏とのことですが、これがもう凄まじいの一言。1本あたり25分超、「これでもか」とひたすらに脳を揺さぶってきます。

ざっくり言えば、本作に収録されているのは音数を増やしながらノイズの嵐に突入していくタイプの強烈なパワー系即興演奏で、轟音に身を委ねているだけでも麻薬的な気持ち良さがあります。しかし、これがデタラメにはまったく聴こえないのです。ミュートを駆使してバキバキという硬質な音や残響音を巧みにコントロールし、ディレイによって多層的な音の激流状態になっている場面においても、目にも止まらぬスピードで音楽が「展開」しているように感じます。

 

個人的には、音楽は「展開」してもしなくても良いと思っています。たとえば、たまたま本作と同時に購入したチューバ即興トリオMicrotubなんかは、3人のチューバ奏者がひたすらに持続音を鳴らす「だけ」の音楽で、とても大きく、ゆっくりとしか展開しません。あるいは、「フレーズ感が稀薄」と言い換えることもできるかもしれません。

 

 

もっと極端に、本当に無機質に音を積み上げるだけみたいな音楽もあるわけですが、この『the seasons ill』に収録されている演奏はそうではなく、ゴリゴリの轟音の嵐の中にあっても、単にフレーズを紡ぐに留まらない多彩な展開を聴くことができます。これをライブで、しかも爆音でやっているというのは本当に驚くべきことで、演奏者の強靭な意志と異常な集中力に圧倒されます。

 

まあ余計なことをゴチャゴチャ言わずとも、ディレイによって「何人もの今井和雄が波状攻撃を仕掛けてくる」というだけで激ヤバいですし、身体的な快感がハンパないです。私のようなド腐れジャズ野郎にも刺さりまくりで、2017年の暫定1位。大推薦です。

 

参考動画① 参考動画②

(クリックすると今井和雄さんのfacebookページに飛びます)

 

2017年2月27日(月)MoGoToYoYo@新宿ピットイン

AEOCへの捧げもの。

 

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2017年2月27日(月)Nu Art Ensemble “MOGOTOYOYO ”plays Phase One

芳垣安洋(Ds,Per)吉田隆一(Sax,Fl)岩見継吾(B)元晴(Sax)有本羅人(Tp,B-cl)

 

ドラマー芳垣安洋さんの新バンド、MoGoToYoYoのデビューライブに行ってきました。ステージ上に所狭しと並べられたパーカッションや管楽器、演奏者の顔にはペインティング。公演タイトルに「plays Phase One」と付いており、ピットインのHPの説明文には「dedicate to Art Ensemble Of Chicago & Adama Moye!」と。アート・アンサンブル・オブ・シカゴと先日急逝してしまったアダマ・モイエ(ドン・モイエの息子)に捧げられています。

 


Art Ensemble of Chicago - Berlin Jazzfest - 1991 - Ohnedaruth

 

アート・アンサンブル・オブ・シカゴといえば、フェイスペインティングなどのインパクトある見た目が印象的。「Great Black Music, Ancient To The Future」を掲げるAACM (Association for the Advancement of Creative Musicians) の代表的なグループで、アホみたいにたくさん並べた楽器を自由奔放に使ったりしながら、民族音楽風?の演奏をするフリージャズ集団です。民族音楽に「風?」を付けたのは、部族的・呪術的な側面がある一方で、なぜか白衣を着た人が紛れ込んでいたり、普通の恰好をしている人が音楽的には一番カゲキだったりするからで、「現実世界には存在しない架空の部族の民族音楽といった趣があります。

 

それでは、このAEOCをリスペクトするというMoGoToYoYoはいったいどんな音楽を演奏したのか。メンバーそれぞれがパーカッションや各種鳴り物、良く分からないラッパや笛の類を自由に鳴らしていたかと思うと、岩見さんのベースが素朴でかっこいいフレーズを繰り返し始め、管楽器が何やらテーマを吹いたり、みんなで歌ったり、奇声を発したり。完全自由即興ではなく、即興と作曲が入り混じりながら、約2時間ノンストップで様々な展開を見せてくれました。

吉田隆一さんが謎のボイスパフォーマンス(?)をやっているのを見て、藤井郷子オケや板橋文夫オケ、渋さ知らズなどを想起させられ、改めてAEOCの後世に与えた影響の大きさを思ったりも。MoGoToYoYoはみんなちゃんと楽器が上手い人たちですし、「何が起きるか分からない」「得体が知れない」といった怪しさ成分はやや希薄でしたが、しっかりとAEOCへのリスペクトを感じさせる、愉快痛快でかっこいい音楽でした。

空気をビリビリと震わせながら鬼のように叩きまくる芳垣さんのドラムを存分に浴びることができたし、芳垣さんと縁の深いあんな曲やこんな曲もやってくれたのも、とても良かった。5月末にまた新宿ピットインでやるそうで、今後の展開も楽しみにしています。

 

 

≪参考動画≫


MoGoToYoYo / Promotion

プロモーション動画としてデビューライブ前にアップされたもの。

 


Insect House / SIGHTS(2001)

「あんな曲」。芳垣さんもメンバーだった、大原裕SIGHTS。

 


Vincent Atmicus/Smokin' with Ginger Cigarette

「こんな曲」。芳垣さんのリーダーバンド、Vincent Atmicusのバージョン。

 

Evan Parker, Mark Nauseef, Toma Gouband / As The Wind

風。

 

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Evan Parker(Sax), Mark Nauseef(Metal Percussions), Toma Gouband(Litophones Percussions)

 

2016年10月にリリースされたエヴァン・パーカーのアルバムを聴きました。録音は2012年。こちらのブログエヴァン自身が「過去最高傑作だ」と言っているということを知り、すぐさま購入しました。

サックスという管楽器を通過する息。金属。石。音色のせいなのか、『As The Wind』というタイトルに引っ張られているからなのか、人為的に演奏されている音楽というよりも自然に存在している音を聴いているような気分になる場面も。遠くからゆっくりとエヴァンのサックスが近づいてきたと思ったら、ダイナミクスの付け方によってある種のフレーズ感が生まれたり、金属を鳴らした残響とエヴァンが小さめの音量で吹くサックスの音が溶け合ったり、コロコロと転がるような石の響きに妙な温かみを感じたり…。フリージャズ的なハッタリやケレン味、"分かりやすいカタルシス"のようなものは見られないのですが、だからと言って穏やかにゆっくりと時が流れていくだけで終わることはありません。所々でエヴァンが強烈な音をぶち込んでくるし、3人の奏者が一体となってグイグイと進んでいくようなシーンもあって、静かに興奮させられます。

うーむ、これは確かにすごい。「エヴァンと言えば」の循環呼吸を用いた例のアレも飛び出すのですが、この盤ではパターン化しているように感じませんでした。共演者の力量(特に石演奏のToma Gouband(読めない)のセンス!)や相性の良さも大きいのだろうと思いますが、エヴァン・パーカーという音楽家の底力を見たような気がします。

 

 

≪試聴音源≫

As The Wind

Pipes And Whistles In His Sound

(クリックするとToma Goubandのサイトに飛びます) 

 

 

≪参考動画≫


trancemap : evan parker / matt wright / toma gouband

  


Toma Gouband live Fri Resonans Blæst 16. november 2012

この人すごく面白い。2~3年前の来日時に観に行かなかったことを激しく後悔。

 

2016年間ベスト

ブログを放置すること4か月、もう2017年になってしまいましたが、2016年の「年間ベスト」をまとめておきます。2016年に聴いた作品の中から、特に印象に残ったものを計13枚選びました。毎年そうなんですが、分母の数が大したことないですし、順位は付けません。アルバムタイトルをクリックするとbandcampやdiscogsに飛びますので、気になったものがあればぜひチェックしてみてください。

 

 

 

≪国外新譜≫

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Steve Lehman  Sélébéyone

超ドープなトラックの上に乗るラップ(=肉声)とアルトサックス(="身体器官の延長としての管楽器"から発せられる音)。ジャズとヒップホップの地縁・血縁関係。この作品の出来自体も素晴らしいけれど、この作品をきっかけに色々と論じることが可能という点でも、2016年を象徴する大傑作ではないかと。

 

 

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Michael Foster, Leila Bordreuil  The Caustic Ballads

JOEさんの記事で知って即購入。サックスもチェロも特殊な奏法を駆使するタイプの即興デュオ。しかし拡張された技術を並べ立てるだけに終わっていないところが◎。サックスをスースーカチャカチャ鳴らす系の即興は聴きすぎて食傷気味な感がある(「ああ、このパターンね…」と思ってしまう)んですが、これは音それ自体の説得力が高いし、展開が多彩でとても面白いです。

 

 

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The DKV Thing Trio  Collider

ケン・ヴァンダーマーク、(エリック・ドルフィーを除けば)1番好きと言って良いくらい好きなミュージシャンなんですが、ここ最近は以前ほど熱心に追いかけることもなくなってきています。それでも新作を聴くとやっぱり興奮してしまって。"ミニマルパワー系フリージャズ"の頂点に君臨するヴァンダーマークとマッツ・グスタフソンのダブルトリオであるこの盤、事前の予想を超える新しいものは特に出て来なかったのですが、やっぱりこういうの、どうしようもなく好きなんです。

 

 

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John Butcher, Thomas Lehn, Matthew Shipp  Tangle

何と言ってもマシュー・シップの凄み。「トーマス・レーンはいてもいなくても…」と少し感じてしまったくらいにシップが強い。(フリー)ジャズの強力な磁場を発生させ、そこにジョン・ブッチャーを引きずり込んでいるようなイメージ。ブッチャーは無伴奏ソロや頭のおかしい多重録音も素晴らしいけど、共演者によって色を変えるというか、内に秘めているものをガンガン引き出してくる感がありますね。

 

 

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Peter Evans  Lifeblood

これはもう圧倒的。トランペットという制限の多い楽器をここまで拡張できるものかと。しかしトランペットでなければ、ピーター・エヴァンスでなければ出せない音がみっちり詰まっています。これまでエヴァンスが数々の作品で示してきた「ジャズ」への特有のアプローチの集大成を見ることができるようにも思います。これがライブ録音というのも本当にヤバい。早く日本に来てくれー!

 

 

≪国内新譜≫

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後藤篤カルテット  Free Size

数年前に新宿ピットイン昼の部で観て以来、CDを出してくれるのを待ち続けていました。演奏はもちろん、林栄一ガトスミーティングや板橋文夫オーケストラでも演奏されているGrand Openなど、作曲も素晴らしいです。録音は"西荻のルディ・ヴァン・ゲルダー"ことアケタの島田さん。安心と信頼の「中央線ジャズ」感ですが、決して生温い内容にはなっていません。むしろめちゃくちゃアツい。作曲でもその才を発揮している石田幹雄さんの存在が良い刺激を与えています。

 

 

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福原千鶴  文の鼓

秘宝感や大群青、坂田明平家物語」への参加などで個人的に馴染み深い福原千鶴さんの1stアルバム。スガダイロー小田朋美etc.多彩なゲストを迎えて鼓、歌、朗読など盛り沢山の内容なんですが、佐藤允彦×八木重吉の2曲がどうしようもなくツボ。一時期こればっかり聴いてました。

 

 

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渋谷毅、市野元彦、外山明  Childhood

7曲中5曲が市野元彦さんのオリジナルで、全体的に市野色が強い……かと思いきや、熟練の3人がそれぞれ個性を色濃く出しながら、不思議な統一感と自由さを醸し出しています。御年77歳(!)の渋谷毅さん、もはや仙人のような出で立ちで、ライブのMCも飄々としてますが、その牙はいまだ捥がれていません。アルバム最後のFolk Song、渋谷さんのスタイルにばっちりハマった名曲・名演だと思います。

 

 

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川下直広カルテット  初戀

選曲からしてもう最高。First Song不屈の民!!そしてThings Have Got To Change!!!私のストライクゾーンど真ん中です。シンプルだけど決してありきたりではない、「ストレート・アヘッド」なジャズ。暑苦しい咆哮から哀愁あふれるバラードまで、全編に満ちる異常なまでの生々しさ。「無機質」という言葉からもっとも遠いところにあるのがこのアルバムではないかと。

 

 

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坂田明×岡野太  duo improvisation 

坂田明さんのアルトのスピード、キレ、コク。衰えを知らないどころか凄味が増しているのでは。自分は緻密に練り上げられたウェルメイドな作品よりも、こういう「気合い一発真っ向勝負」で身体性が前面に出たものにどうしようもなく惹かれてしまう性分でして。血が滾るのを止められないんですよ。

 

 

≪発掘盤etc.≫ 

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Charlie Haden, Liberation Music Orchestra – Time/Life (Song For The Whales And Other Beings)

生前のチャーリー・ヘイデンの演奏を含むLMO新作。ヘイデンが亡くなった後の曲はカーラ・ブレイ色が強く出ていて、過去作と併せて聴くことでLMOにとってのカーラの存在の大きさが良く分かるような気がします。ヘイデン没後の演奏は、カーラの近作と比べて特別優れているとは言えないようにも思いますが、LMOへの個人的な思い入れの強さやヘイデンの死による感傷を差し引いても、Blue In GreenSong for Whales(トニー・マラビーのソロ!)は快演だと思います。

 

 

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Pharoah Sanders, Hamid Drake, Adam Rudolph – Spirits

ファラオ・サンダースの絶叫・咆哮。これに尽きます。胡散臭さ満点のパーカッションやタブラが鳴り響く中、猛然と吠えまくるファラオ。暑苦しい!ヤバい!間違いない!咆哮パートはアルバム全体のごく一部なんですが、ここを聴くだけのためにでも買う価値はあると思います。ファラオのファンは必聴。

 

 

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David S. Ware & Matthew Shipp Duo – Live in Sant'Anna Arresi, 2004

2004年の発掘ライブ盤。どこを切り取っても「ウェアの音」としか言いようがない音が鳴っていて、初めて聴いたときは電車の中にもかかわらず涙ぐんでしまいました。これについては冷静なレビューは不可能。ありがとう、ウェア。ありがとう、Aum Fidelity。

 

 

≪総括≫

「豊作」という印象です。ここに挙げたもの以外でも愛聴している盤が結構ありますし、気になりつつ聴きそびれてしまったもの、買ったまま積んであるものも多数あります。しかし、こうして並べてみると相も変わらずジャズとかインプロばっかり聴いてるな…。

それと、今更かもしれませんが「bandcampやべえ」ってのが大きな感想ですね。なんと上に挙げた国外盤のほぼすべてがbandcampで試聴・購入可能です。ヴァンダーマークなんかも新作だけでなく、CDでは入手困難になっている旧作まで配信し始めていて、欲しいものが無限に転がっているのではないかと思うくらいです。

2016年はTwitterを始めたことでブログ更新頻度が激減した1年でもありました。ブログを書くためにまとまった時間を取ることが難しくなったというのもあるんですが、ちょっとした感想程度ならツイートするだけで済ませた方が楽になってしまって。備忘録のつもりで4~5年書いてきたこのブログ、やはりバックナンバーをたどりやすいといったメリットもありますので、アルバムレビューやライブの感想などちょこちょこ更新していきたいなと思っています。2017年も、お付き合いくださる方がいれば幸いです。

 

 

 


Eric Dolphy 1963 - God Bless The Child

2017年もみなさんに祝福がありますように。

 

 

Steve Lehman / Sélébéyone

めちゃくそカッコイイ。

 

 

Selebeyone

Selebeyone

 

Gaston Bandimic(vo:Wolof) HPrizm(vo:English) Steve Lehman(as) Maciek Lasserre(ss) Carlos Homs(p, key) Drew Gress(acb) Damion Reid(ds)

 

 

3か月も放置していたのでもはやブログの書き方も忘れてますが、この作品のレビューはもっとたくさん書かれるべきだろうと思いまして。スティーヴ・リーマンの新譜の感想を簡単にまとめておきます。

 

リーマンと言えば、私にとっては長らくCamouflage Trio等での激烈なアルトサックスが印象的な人だったのですが、彼はコロンビア大学で博士号を取得している知性派でもあり、近年は作曲と即興を極めて緻密に組み合わせたような作品群を発表して話題を呼んでいます。個人的には「頭良さそうな作品ばっかり作ってないで、もっとゴリゴリ吹いてくれよ!」と不満に思うこともなくはなかったのですが、一昨年に出た『Mise en Abîme』はあまりにかっこよく、私も「生意気言ってすんませんでした…。超カッコイイっす…。」と降参宣言したのでした。

 

 

 

そんなリーマンの新譜、なんとセネガル・ラップ入り。恥ずかしながら全然知らなかったのですが、セネガルのラップシーンというのは独自の発展を遂げており、かなり盛り上がっているようです。また、リーマンのコロンビア大学時代の師の1人はトリスタン・ミュライユという現代音楽の作曲家で、本作にはミュライユらスペクトル楽派の手法も取り入れられているそうな。・・・なんだか要素が多すぎて訳分からんですが、なにはともあれ↓の試聴音源を聴いてみてください。

 

 

私が本作を聴いて最初に思ったのは、「ヒップホップとしてくっそかっけえ!!」ということでした。リーマンがアルトサックス奏者/ジャズミュージシャンであると思って聴くと別の感じ方になると思うのですが(Twitterで交流を持たせてもらっているkenさんのブログ記事が大変興味深いです)、私の第一印象は超ドープなトラックの上にラップとサックスが乗っている、というものでした。

 

「ヒップホップとジャズ」と言えば、やはり最近はロバート・グラスパーらいわゆるJTNC系を想起せざるを得ないわけですが、リーマンのアプローチはそれとはまったく違うように見えます。Jazz The New Chapterが提示したのは、「ヒップホップetc.を自分のものとして消化してきたミュージシャンたちのやるジャズ」が見せる大きな広がり、という物語でした。グラスパーらのやっていることは、「ジャズ」としての面白みに欠ける旧来の「ジャジー・ヒップホップ」のようなものとは一線を画しているようであり、その意味では確かに新世代感があると思います。しかし、個人的にいまいちノリきれていないのは、「ラップが乗るビート」としてはあまり新鮮さを感じないというところだったりします。

 

たとえばこれ。 ポップで洗練されていますが。

 

これに対し、私はリーマンの本作を「現代ジャズ・現音etc.の要素をぶち込んだトラックにラップとサックスを乗せているもの」として受け取ったわけです。ここでは、身体器官の延長としてのアルトサックスから発せられる音が、生身の人間の肉声によるラップと並列に扱われているように思います。管楽器奏者がリーダーの作品であるにもかかわらず、管があまり前面に出ないミックスになっているのも、リーマンが意図的にそうしたのではないかと。

上述のkenさんのブログでは、

・ラップをバックにしたフリーっぽいアルト。

Steve Lehman: Sélébéyone (2016) 奇妙な味、が美味しかった - Kanazawa Jazz Days

と表現されていましたが、私は本作を聴いてラップとアルトの両方がトラックと見事に絡み合っていることに大興奮しました。奇しくもグラスパーの作品にも参加しているダミオン・リードの叩く頭おかしいとしか思えないドラムetc.によって構成される超トガったトラックが、アルトのソロが乗るものとしても、セネガル・ラップが乗るものとしてもばっちりハマっていて、なおかつ強烈に刺激的なのです。

やはりこれは「ジャジー・ヒップホップ」でも、「ヒップホップ以降のジャズ」でもなく、スティーヴ・リーマンにしか作り得なかった凄まじい作品と言うべきでしょう。単純バカなフリージャズ愛好家の私としては、吠えまくるリーマンが聴きたいという気持ちもやっぱり捨てきれないのですが、それにしてもこの作品にはやられました。またしても降参です。

 

本作には色んな要素がぶち込まれているので、まだまだ各方面から語れることがたくさんあるはずです。既にPitchfork等海外のサイトではレビューが結構アップされてますが、日本語で書かれたレビュー・感想をもっともっと読みたいなと思っています。

 

 

白石民夫@新宿西口カリヨン橋

わずか20分。

 

 

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2016年6月3日・白石民夫@新宿西口カリヨン橋

白石民夫(As)

 

ちらほらと噂は耳にしていた白石民夫さんの路上演奏、ついに生で体験することができました。22時少し前にカリヨン橋に着くと、しゃがみこんで何やら準備をしている白石さんと10人ほどのギャラリーが。人通りが多い場所ではないものの、新宿の駅前ですから、通り過ぎていく歩行者はそれなりにいます。白石さんは見た目普通のおじさんですし、楽器をもっているので「これから何か演奏するんだろうな」って感じに見えたと思いますが、橋の片側に寄って演奏開始を待つ観客たちは何の集団なのか分からない有象無象感があり、なかなか異様な雰囲気でした。

そんなことを考えていると観客もだんだん増えていき、22時を少し過ぎたあたりで演奏が始まりました。キュルキュル、キーキーと高音を数分鳴らしては少し休む(リードやマウスピースを交換?)という、ただそれだけのことを20分ほど。当然、車や歩行者の会話の声といった色んな街の音が同時に聞こえてくるわけですが、そんな中で白石さんの出す音がひたすら夜の空に吸い込まれるように消えていきます。演奏が進む(?)につれてトーンの変化もあったりするのですが、一瞬前に鳴っていた音は二度と再現され得ないものであるということが強く感じられ、ベタですが"You can never capture it again"という例の言葉が頭を過ぎったり。

 


Last date- Miss ann.

 

演奏中、橋を通り過ぎていく人たちの反応も様々でした。いぶかしげな目線を向ける人。鼻で笑う人。スマホでぱっと写真を撮ってすぐ立ち去る人。観客のカメラに入らないように気を遣い、しゃがんで通り抜けていく人。一瞥もくれない人。思いがけない音にビクッとする人。

実のところ、私はいわゆるサウンドインスタレーションだとか、出音そのものとは関係ない要素の多いパフォーマンスの類には軽い苦手意識を持っていたりします。しかし、この白石民夫さんの路上演奏からは、通行人やギャラリーの反応も含めた「場」の空気を丸ごと体験することによって初めて生まれたのであろう「何か」をビシビシと感じて、なぜだか分かりませんが猛烈に感動してしまいました。

最終的に観客は20人以上、おそらく30人近く来てたと思います。動画を撮っている人も何人かいたようですが、あの空気感は絶対に生で体験すべきものだと思います。6月12日(日)22時から同じ場所で演奏するそうなので、興味のある方はぜひ。

 

 

<参考動画>


白石民夫/20150701/at新宿カリヨン橋

 

 

地下鉄「Subway in NY・Live」

地下鉄「Subway in NY・Live」

 

NYの地下鉄での演奏の記録。これまた凄まじいです。ジョン・ブッチャーホーコン・コーンスタがやっていたような、採石場や古い教会みたいな特殊な響きを持つ場所での演奏をやってくれたら、ぜひ生で体験してみたいです。

 

川下直広カルテット@入谷なってるハウス

かぶりつきでド迫力。

 

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2016年5月28日(土)川下直広カルテット@入谷なってるハウス

川下直広(Ts)、山口コーイチ(P)、不破大輔(B)、岡村太(Ds)

 

 

川下直広カルテットの新譜『初戀』発売記念ライブに行ってきました。リーダー川下直広さんの目の前の席で、思う存分テナーの音を浴びることができて大満足でした。演奏されたのはたぶん以下の曲(メモ取らなかったので順番とか諸々間違ってる可能性あり)。

 

<1st>

Alfie(Burt Bacharach)、The Rain(Eddie Gale)、Saving All My Love For You(Michael Masser, Gerry Goffin)、You've Got To Have Freedom(Pharoah Sanders

 

<2nd>

First Song(Charlie Haden)、Misty(Erroll Garner)、Things Have Got To Change(Cal Massey)、The End Of The World(Arthur Kent)、I Love You(尾崎豊

 

新譜のライナーノートには「革命」「戦場」といった物騒な言葉が躍っているんですが、個人的にはそういったイメージが喚起されることはまったくなく。もちろん熱気や良い意味の暑苦しさもありますが、スタンダードやポップスカバーを歌い上げるこのバンドの演奏から感じたのは、強烈な生々しさをもった「ジャズ」でした。

一口に「ジャズ」といってもジャズ観なんてものは十人十色、百人百色。端正なピアノトリオにうっとりするのが好きな人もいれば、統制の取れたビッグバンドを愛する人もいるし、ドシャメシャフリーの自由さに熱狂する人もいて、それぞれに「これぞジャズの醍醐味!」と感じるところがあると思うのですが、私にとっては川下直広カルテットの演奏がまさにそれ。

独特なビブラートの効いた川下さんのテナーは力強く「息」を感じさせるもので(息継ぎすらもカッコイイ)、管楽器の美味しいところが詰まっています。シンプルに演奏されるホイットニー・ヒューストン尾崎豊といったポップスのカバーは、下手をするとクサいムードテナーになってしまいそうですが、川下さんの演奏からいつも連想するのはローランド・カークアーチー・シェップアルバート・アイラーといった名前。ポップスやR&B、黒人霊歌などを「歌う」テナーの系譜にあると勝手に思っています。地を這うような不破大輔さんのベースもそんな川下さんのテナーと相性バッチリで、私の好みど真ん中。実にたまらん演奏でした。

新譜の正式な発売日は6月19日(地底レコードの通販受付はもう始まっています)。この記事冒頭に貼ったフライヤーの画像の通り、まだまだライブあるそうなので興味がある方はぜひ。ライブ会場で、生で聴くことをオススメします。

ちなみに@Sightsongsさんも聴きに来ていて(ブログ記事参照)、開演前から帰りまでずっと音楽の話。JAZZ TOKYOの取材やレビューの裏話なんかも聞かせてもらったり。大変楽しかったです。

 

 

<参考動画> 


【お薦め】川下直広カルテット/Rain 他

 


Kawashita Trio / You've Got To Have Freedom (1/2) 川下直広トリオ