たぶん思ったことあんまりまちがってない

ジャズ アルバム紹介やライブの感想など 

吉田野乃子 Lotus

傑作。良作。快作。名作。佳作。秀作。どれでも良いですが、とにかく素晴らしいです。

 

 

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気鋭のサックス奏者、吉田野乃子さんのソロ作を聴きました。多重録音を駆使した作曲作品や無伴奏の即興演奏など7曲を収録。中身については、JOEさんの記事が丁寧に解説しつつ熱く魅力を語っていますので、まずはそちらをご覧ください。

聴く前にこの記事を読んで若干ハードルが上がってたんですが、本作はそんなもの易々と飛び越えていきました。アルトの切れ味の鋭さだけでもシビれるのに、豊かにあふれ出るアイディアと、それを形にする卓越した演奏技術、構成力、実に見事です。収録時間は35分程度と短いですが、アルバム全体で一つの作品としての完成度・充実度がかなり高いように思います。

当ブログを読んでくれるような方なら、ここでごちゃごちゃ言わなくてもきっと楽しめるはず。めちゃくそカッコイイので、何はともあれ聴いてみることをオススメします。

 


参考動画

 

 

[10月28日]本作のサンプル動画(スペルミス修正版)がアップロードされたので追加します。 

 

本作は吉田さんによる個人販売で、facebooktwitterでメッセージを送ると購入できます。私はSNSやらない人間なので、「どうしたものやら…」と困ってたんですが、JOEさんの記事のコメント欄に吉田さんがメール注文もできる旨書き込んでくれたため、非常に助かりました。そのコメントを見て早速メール注文したところ、丁寧かつ迅速に対応してくださって、あっという間に届きました。
吉田さん、そしてJOEさん、ありがとうございました!

 

https://www.facebook.com/nonoko.yoshida.9

Nonoko Yoshida 吉田野乃子 (@nonokoyoshida) | Twitter

野乃屋レコーズ nonoko_yoshida@yahoo.co.jp 

 

 

 

(完全に余談ですが、8月にCatalytic Soundに注文したヴァンダーマークの新作3種がまだ届きません。CD付フォトブック"Site Specific"の制作が遅れたらしく、10月12日以降には発送できるっぽいことを書いた謝罪メールも着たんですが、いまだに「オーダー処理中」の状態で止まっていて…。ぐぬぬ…。)

 

 

 

Evan Parker Electro Acoustic Septet / Seven

何とも恐ろしいメンツを集めたもんです。

 

 

Electroacoustic Septet Seven

Electroacoustic Septet Seven

 

Evan Parker(Ss), Peter Evans(Tp), Okkyung Lee(Vc), George Lewis(Electronics, Tb), Ikue Mori(Electronics), Sam Pluta(Electronics), Ned Rothenberg(Bcl, Cl, 尺八)

 

 

御茶ノ水ディスクユニオン泉邦宏『きけとりさんのこえ』を買いに行った時に目に入ってしまったのが運の尽き。「最近出費多いし節約せねば」とか思っていたのもどこへやら、このメンツを見て手に取らないわけにはいきませんでした。若手のピーター・エヴァンスから重鎮ジョージ・ルイスまで、一癖も二癖もある人ばかり。

 

まずはこちらの動画をどうぞ。

 

Roulette TV: EVAN PARKER from Roulette Intermedium on Vimeo.

 

うーむ、カッコイイ。

この手の集団即興ものって、「せーのっ」でギャーギャー吠えまくるタイプのものは別として(そういうのも大好物ですが)、「なんでこの人数でやっているのか」が分からなくなるものが結構あると思います。先日、某海外ミュージシャン2名と日本人の即興演奏家2名が共演するライブを観に行ったんですが、途中で「なんだ、各自好きなことやってるだけじゃねーか」って思って退屈してしまったことがありました。それぞれの音は好きだし、彼らのリーダー作・参加作で愛聴している音源もたくさんあるにもかかわらず、です。その時、「この手のインプロセッション的なものは、何かしら枠付けしない限り、4人以上になるとキツいのでは」とか思ったんですよね。

その点、この七人編成の演奏は、それぞれの個性を強烈に発揮し、多彩に展開しながらも、うまいこと1つのうねりを作り上げているように感じました。そして、その中からエヴァンのソプラノが立ち上ってくる時の気持ち良さと言ったら!ロスコー・ミッチェルとの大編成での共演作を聴いたときにも思いましたが、こういうのはやっぱり好きだなあ。

 

本作のジャケット内側には、"My art of composition consists in choosing the right people and these are the right people"というエヴァンの言葉が。エレクトロニクスは誰が何やってんだかさっぱり分かりませんが(笑)、近年エヴァンが共演を重ねているオッキュン・リーやピーター・エヴァンスは本当に上手いことハマってると思います。エヴァンは来年の4月にも来日するようですが、いつか彼らを連れてきて欲しいと強く願っています。

 

 

 

 

ダウトミュージック10周年記念祭り・夜の部

10周年を祝うにふさわしいお祭り感。

 

 

2015年10月12日(月)ダウトミュージック10周年記念祭り・夜の部
JAZZ非常階段 feat. 梅津和時菊地成孔、テンテンコ

 


ダウトミュージック10周年記念祭り、夜の部も観てきました。昼の部が終わったのが16時30分過ぎくらいだったかな。喫茶店でブログを更新し、軽くメシを食い、ディスクユニオン等をぶらついて時間をつぶして、20時からようやく待ちに待ったJAZZ非常階段がスタートしました。
JAZZ非常階段はこれまで二度(勝井祐二さんがゲストの回と、大友良英さん&山本精一さんがゲストの回)観ていますが、今回は何と菊地成孔さん&梅津和時さんが参加するということで、めちゃくちゃ楽しみにしてました。


1部は色々組み合わせを変えてのセッションでした。組み合わせと出演順は以下の通り。

 

菊地成孔(As)、JOJO広重(Gt)、岡野太(Dr)
梅津和時(As)、JUNKO(Vo)
③T.美川(Electronics)、テンテンコ(Electronics)
菊地成孔(Rap、As)、T.美川(Electronics)、JUNKO(Vo)
菊地成孔(As)、JOJO広重(Gt)
梅津和時(As)、テンテンコ(Electronics)
梅津和時(As)、岡野太(Dr)

 

期待していた菊地さんの演奏、見せ方(魅せ方)の上手さが「さすが」の一言。④で非常階段の2人のノイズにラップ(最近よくやってるフリースタイルというか「Catch22」の引用などなど)を乗せたのはまあ予想通りだったのですが、⑤のJOJO広重さんとのデュオで「いかにもジャズのアドリブっぽい」フレーズを淡々と吹いたのには驚かされました。どうにも口で説明しづらいのですが、それに対するJOJOさんの対応も面白くて、あそこだけ「ジャズでもノイズでもない何か」が生まれていたように思います。普段の発言や作品の提示の仕方から、菊地成孔なにをやっててもパロディに見えちゃう問題」があると思っていて、あの場面もジャズをやっているというよりは、「あえてジャズっぽく見えるようにやっている」ように感じました。アグレッシブに高速で吹きまくる場面も多かった(超かっこよかった)んですが、それもラウンジリザーズ風に言うならば「フェイク・フリージャズ」みたいに見えてきたり。実を言うと、菊地さんのああいうポストモダン感というか、ある種の"器用さ"みたいなものは割と苦手だったりします。しかし、今回はそれが企画とうまいこと噛み合っていたのか、素直に楽しむことができました。

梅津さんのアルトもいつもながら切れ味鋭く、飛び道具的な特殊奏法(朝顔を太ももに押し当てたり、口にリードをくわえて指でビヨンビヨンと鳴らしながら吹いたり)も織り交ぜつつ、明るく爽やかに暴れまわっていて最高でした。②ではJUNKOさんの金切声と見事に溶け合っていて面白かったし、⑦の岡野太さんとのデュオなんてかっこよくないわけがないでしょう。客席が一番盛り上がったのも⑦だったと思います。

個人的に楽しめなかったのは、テンテンコさんの演奏。③も⑥も、シンプルなビートを延々ループさせてちょっとずつイジりながら、その上にノイズを重ねていくといったものでした。これは持論と言うか趣味の問題かもしれませんが、「ボトムのしっかりしすぎているノイズは面白くない」のではないかと。カオスの中から聴き手が色んなものを見出せるのがノイズの面白さだと思っていて、一定のリズムパターンのまま通されると、ノイズ成分が色付け程度にしか見えなくなってしまうことがありまして…(初音階段やBiS階段のような「うたものノイズ」に興味を持てないのも、そこに原因があるような気がしています)。

 


2部は例のごとく全員のセッションで、ぐちゃぐちゃな誰が何をやっているのかほとんど分からない状態に突入。こうなってしまうと耳もやられて展開も何も聴き取れないんですが、その中では岡野さんのドラムの存在感が際立っていました。長尺の演奏で聴き手も疲れてきた後半に、髪を振り乱しながら鬼のように乱打していたのが激アツ。梅津・菊地・JOJOというベテラン3人のステージングも見事。菊地さんが吹きまくっているところに梅津さんがやおら近づき、2人で同じマイクに向かって猛然と吹き始めると、それを見たJOJOさんがすぐさま2人の後ろに!冷静に考えると小柄な中年男性が3人並んでいるだけとも言えるんですが(笑)、あの図はやっぱりかっこよかった。

 

 

昼夜2公演観たらさすがに疲れてしまって、昨日は帰宅してすぐ寝てしまいましたが、しかし楽しい祭りでした。信頼と安心のダウトミュージック、今後も面白い音源を出し続けてくれることを期待しています。祝10周年!

 

 

 

<おまけ・ダウトミュージックの愛聴盤5選>

Undine

Undine

 

 一押しはこれ。アイディアの面白さが目をひきますが、サックス奏者としての実力も折り紙付き。

 

 

the elements

the elements

 

 サックスのヤバい音の見本市のような作品。圧倒されます。

 

 

2

2

 

 blacksheepの1stと2ndもダウトから。どちらも傑作です。

 

 

ONJO

ONJO

 

 ダウトと言えば大友良英作品。アイラーやオーネット、ドルフィーのカバー集も面白いです。

 

 

dj sniff、ダウトミュージックを斬る。

dj sniff、ダウトミュージックを斬る。

 

これ単体で面白いんですが、 ダウトミュージック作品のサンプルとしても使えちゃいます。

 

 

改めてカタログを見返してみると、持っているのは半分くらいでした。まだ入手できていないものの中にも面白そうなものがたくさんあるので、ちょこちょこ集めていきたいなと思ってます。

 

 

 

 

2015年10月12日(月)ダウトミュージック10周年記念祭り・昼の部

夜の部まで時間があるので、今のうちにサクっと記録をまとめておこうかと。

 


10月12日(月)ダウトミュージック10周年記念祭り・昼の部
今井和雄(Gt)、広瀬淳二(Ts)、沼田順(Gt etc.)

 


信頼と安心のレーベル、ダウトミュージックが10周年を迎えたということで、その記念ライブに行ってきました。今日は新宿ピットインで昼夜二公演あるのですが、昼の部は今井和雄広瀬淳二という超強烈なインプロバイザー2人と、レーベル社長の沼田順さんの共演。
今井和雄さんのライブ演奏を観るのは相当久しぶりで、たぶん2006年か2007年くらいにノイズ系のイベントで観て以来。高円寺20000Vだったか、新大久保EARTH DOMだったか、詳細は覚えてませんがENDON絡みのイベントだったような。凶悪なノイズをまき散らすバンド/ユニットの出演が続く中、ギター1本抱えてステージに上がった今井さんが凄まじい迫力の演奏をしていたのが強く印象に残っています。その今井さんと広瀬淳二さんの共演ということで、これは見逃すわけにはいかないと思って昼間からピットインへ。

 

一部は、今井・広瀬→今井・沼田→広瀬・沼田の順でデュオを3本。二部は、3人全員での演奏1本+アンコールという構成でした(どーでもいい余談ですが、一部と二部の間の休憩時間には、BGMとしてオーネット『サウンド・グラマー』が流れてました)。

楽しみにしていた今井さんのギター、やはりすさまじかったです。ミュートした硬質な音をバキバキ鳴らしていたと思ったら、残響を巧みにコントロールして"発狂したビル・フリゼール"的な演奏をしたり、細長い金属の棒を弦に挟んでチェーンのようなものでゴリゴリとパーカッシブに鳴らしたり、展開が多彩。しかも、それらすべてが圧倒的なスピード感と迫力を持っていて、聴いていて思わず笑けてきてしまうかっこよさ。それに広瀬さんのサックスのえげつない音が絡むのだから、もうたまらんですよ、これは。沼田社長のギターetc.は、始めは手探り感もあるように思いましたが、カオティックなノイズパートでは要所要所でかっちょいい音を繰り出していました。

まずは昼の部、良いライブでした。特に前半の今井・広瀬デュオは、今年観たライブの中でもベスト級かも。夜の部のジャズ非常階段も楽しみにしています。

 

<参考?動画>


ノイズ電車 - フェスティバルFUKUSHIMA! 世界同時多発イベント - YouTube

ちょうどよい動画がなかったので、こんなものを。2:15頃から広瀬淳二さんが。

 

 

10月8日(木)板橋文夫スペシャル・オーケストラ@新宿ピットイン

間違いない。

 

 

2015年10月8日(木)板橋文夫スペシャル・オーケストラ@新宿ピットイン
板橋文夫(P)、林栄一(As)、纐纈雅代(As)、片山広明(Ts)、吉田隆一(Bs)、類家心平(Tp)、後藤篤(Tb)、高岡大祐(Tuba)、太田恵資(Vn)、瀬尾高志(B)、竹村一哲(Ds)、外山明(Ds)
スペシャル・ゲスト:結(金子友紀・藤沢しげみ・町田加代子・小山貢理乃)、レオナ(Tap)

 

 

板橋文夫FIT!のレコ発ライブに行ってきました。高岡大祐さん、後藤篤さんらの加わった最近の板橋オケに、ゲストで民謡ユニットの「結」とタップのレオナさんが参加。

一部は板橋オケ+レオナで、板橋曲、吉田曲などを演奏。吉田隆一さんの新曲「MARS STEP」が超絶かっこよく、思わず落涙してしまいました。映画マッドマックス 怒りのデス・ロード』を初めて観たとき、冒頭タイトルが出てから砂嵐に突入するシーンまでの間ずっとぽろぽろ泣いてたのですが、あれと同じ種類の涙ですね。「俺が観たかったのはこれだ!これなんだよ!」という気持ち。大編成で聴く吉田さんの曲はほんとに好きだし、メンバーも楽器編成も理想的。5億点。
「結」の加わった二部では、「おてもやん」「相馬盆唄」安里屋ユンタといった日本各地の民謡がたっぷり演奏されました。元々民謡感・多国籍感のある板橋さんの音楽にこれが合わないわけがなく。最後は何とソーラン節×Voodoo Chile。高岡さんのチューバから始まった瞬間にギル・エヴァンス・オーケストラの演奏を連想しましたが、同じくらいの規模のオケでも当然ながら個性が全く違っているのが面白いですね。エレクトリック期のギルオケはある種の緩やかさというか、スカスカな感じが魅力だったりするのですが、板橋オケはエネルギーの奔流・爆発といったイメージ(最近の邦楽器入りの大編成と言えば、スガダイローさんの大群青もめちゃクソカッコイイのですが、近頃ライブやってないようで寂しいです…)。
アンコールは名曲「渡良瀬」が演奏され、さらに「おまけ」として板橋・太田デュオの「For You」で締めて、終演は11時過ぎ。大満足のライブでした。しかし、最近の板橋オケを観に行くたびに思うのですが、ぜひこのメンバーで音源リリースして欲しいですね。オーケストラ編成のアルバムは2008年の『We 11』以来出てないはず。ライブレコーディングのCD-Rでも何でも買うので、そろそろ出してくれないかなあ…。

 

 

 

 

 

 

みるくゆ表.jpg

みるくゆ裏.jpg

Amazonでは取り扱っていないっぽいので、瀬尾さんのブログから勝手に画像を拝借。まだ1回しか聴いていませんが、これもなかなかイイ感じ。

泉邦宏 きけとりさんのこえ

全身小説家……ではなく、全身音楽家。

 

きけとりさんのこえ

きけとりさんのこえ

 

 泉邦宏(Vo, Sax, Gt, B, Drほかいろいろ)


泉邦宏さんの新譜を買いました。多重録音による完全ソロ作で、作曲もすべて泉さん。サックスはもちろん、ヴォーカルやギター、ベース、ドラムから、「とりさん」(にわとりのおもちゃ?)まで、すべて1人で演奏しています。

藤井郷子オーケストラや泉邦宏トリオ(高岡大祐Tuba、池澤龍作Dr)で聴けるように、卓越したサックスのインプロバイザーである泉さんですが、本作では泉さんの「うた」が前面に押し出されています。ヴォーカルだけでなく、たくさんの楽器群も非常によく「うた」っていて、サックスなんかは肉声の延長線上にあるような生々しさを感じます。
シンプルなメロディに乗せて歌われている内容も、「とんかつ定食うまい」といった非常に生活感あふれるものばかり。いくつか「反戦歌」的なものもありますが、それらはただ「政治的なメッセージを歌っている」のではなく、やはり生活の中から出てきたものという色が濃いように思います。

iTunesに突っ込むと「Jazz」に分類されましたが、これはもはや「泉邦宏」というジャンルの音楽でしょう。普段こうした「うた」がメインのものはあまり聴かないし、聴いていてエキサイトするようなタイプの音楽でもないのですが、なぜか繰り返し聴き続けてしまう不思議な魅力があります。

 

 


泉邦宏/雨の日も風の日も - YouTube

 傑作『ソロ・ライブ!』収録の曲。素晴らしい。

 

 


泉邦宏/皇帝 - YouTube

 渋さでもおなじみ、加藤崇之さんの「皇帝」。これもいいなあ。

いーぐる連続講演 第570回 BYG特集(解説:須藤輝、吉田隆一)

2日続けてのジャズ喫茶。

 

2015年9月26日(土)いーぐる連続講演 第570回 「BYG特集」

解説:須藤輝(ライター/編集者)、吉田隆一(バリトンサックス奏者)

 

ジャズ喫茶いーぐるで行われた講演に行ってきました。今回はフランスのレーベルBYGの特集。過去2回行われた須藤・吉田コンビによるESP特集の講演がめちゃくちゃ面白かったので、今回も期待していーぐるに向かいました。BYGの作品はそこそこ聴いていて、AEOCアーチー・シェップサニー・マレイといった黒人前衛ジャズの名盤を結構出していたレーベルというイメージ。それをいーぐるのオーディオでまとめて聴けるっていうだけで嬉しいなと。

 

まずは店主・後藤雅洋さんのあいさつ。「ジャズ喫茶を始めて2年くらいしてBYGが登場し、一気に大量にリリースしたので驚いた記憶がある。AEOCも随分聴いたが、玉石混交で"はてな?"というものもあった」というようなことをおっしゃっていました。ESP特集の時にも思いましたが、後藤さんってフリージャズも結構聴かれてるようですね。しかもリアルタイムで。(ちなみに、講演が始まる直前に店内でかかっていたのは、Christian Scott『Christian aTunde Adjuah』でした)

講演の初めに、須藤さんがBYGというレーベルの成り立ちについて解説。1967年にパリで設立、69年から71年にかけてフリージャズのActuelシリーズをリリースしていたとのこと。69年にアルジェリアで行われたパン・アフリカン・フェスティバルに出演したシェップやアラン・シルヴァらをパリへ連れていき、10日間で15枚分一気に録音したなんていう話も。

その後は、計16枚のレコードをかけつつ、須藤・吉田コンビが解説やツッコミなどを加えていくという流れ。一応有料のイベントだったので、講演内容をすべて書き起こすことはしませんが、気になった盤や面白かったコメントをいくつかピックアップして紹介させてもらおうと思います。聴きながら適当に取ったメモを基に書くので、間違いがあったらすみません。

 

 

最初にかかったのが、BYG Actuelの記念すべき1枚目、ドン・チェリーエド・ブラックウェルの名盤『Mu』

Mu Pt 1 & 2/Orient

Mu Pt 1 & 2/Orient

 

 ハン・ベニンクの入った『Orient』もセットでCD化されています。お得!

 


Don Cherry - Brilliant Action - YouTube

これは前からかなり好きです。小編成のエド・ブラックウェルはほんとうにイイ。

 

(講師のコメント・抜粋)

吉田:ドン・チェリー楽器がすごく上手い。こういうタイトなデュオだとそれが良くわかる。

須藤:オーネットやアイラーとのフリージャズから、いつの間にかロハスへ。『Ku:nelとかで特集される感じ。

吉田:"偽民族音楽"感。ドン・チェリーは最初っからうさんくさいから、それも許される。

須藤:民族音楽的な方向は、フリージャズがアメリカで行き詰った先の1つの突破点のようなものだったのかもしれない。でも、こんなことができたのはドン・チェリーだけ。

 

 

続いて、2曲目はAEOCの『Jackson in Your House』から「Get in Line」

Jackson in Your House: Message to Our Folks (Reis)

Jackson in Your House: Message to Our Folks (Reis)

 

これも『Message to Our Folks』とセットで出てますが、2枚とも大好きです。マラカイ・フェイヴァースのベースが効いてます。

 

(コメント抜粋)

吉田:AEOCは"楽器の記号性"を活かすのが上手い。ドン・チェリーとは違った上手さ。

須藤:AEOCは、前衛的だがトラディショナルなのが特徴。

 

 

私の大好きなサニー・マレイの『Sons of Africa』を挟んで、4曲目はシェップの『Yasmina, a Black Woman』から「Yasmina」。

Yasmina a black woman / Poem for Malcolm

Yasmina a black woman / Poem for Malcolm

 

これも傑作『Poem for Malcom』とセット。

 

(コメント抜粋)

吉田:シェップの音はすごい。ファットリップという独特な奏法で、安定しないが音がとにかくデカい。「自分の楽器で色々なことがやりたい」という欲を捨て、この奏法を選択したシェップの勇気。尊敬している。

須藤:本当はジャズ、ハードバップがやりたかった人だと思う。だからB面でハンク・モブレーと「Body & Soul」をやっていたりするのでは。

 

 

その後も10枚以上ぽんぽんと聴いていき、吉田さんによるサックス奏者の使用楽器の解説があったり、ポール・ブレイはジャズ界一の"スワッパー"」(須藤)といったキラーフレーズも飛び出したりして、2時間半たっぷりと楽しみました。他に、「ヨアヒム・キューンカール・ベルガ―は米独を繋ぐ役割を果たしている」という須藤さんの指摘や、「デューイ・レッドマンはブリティッシュ・ジャズのプレーヤーと共通の資質を持っていると思っていて、現在研究中」という吉田さんのコメントも。まったく聴いたことがなかったもの(Acting TrioAme Son)もかかりましたし、大満足でした。

 

 

…実は、約2年前に須藤・吉田コンビのESP特集のことを当ブログに投稿したとき、↓こんなことを書いていました。

 

こういったトーク企画、いーぐるやベルサンで続けてやってくれると本当に嬉しいです。レーベルなら「BYG actuel特集」とか「Black Saint / Soul Note特集」なんかどうでしょうか。「ロフトジャズ特集」や「AACM特集」なんかも誰かやってくれないかなあ。このあたり、あまりに語られてなさすぎるし、再評価すべきものがたくさんあると思うのですが・・・。

いーぐる連続講演 ESP特集(解説:須藤輝、吉田隆一) - たぶん思ったことあんまりまちがってない

 

いやいや、まさか実現するとは。講演の終わり際に、須藤・吉田「次はFMP特集?それだとブロッツマン特集になるかな」みたいなことをおっしゃってましたが、個人的には、やっぱりAACM特集は是非やって欲しいですね。ちょうど今年50周年ですし、ケン・ヴァンダーマークらフリー・前衛寄りの音楽家だけでなく、ジェイソン・モランのような人気のあるコンテンポラリー系の人たちに与えた影響も無視できないと思うんですよ。ヴィジェイ・アイヤーなんて「Little Pocket Size Demons」のカバーしてるわけで…。ヘンリー・スレッギルロスコー・ミッチェルはバリバリ現役だし、アンソニー・ブラクストン門下生は大活躍しているし、マタナ・ロバーツらの黒人ジャズの継承・提示の仕方も興味深いし、色んな切り口で語れると思うんですよね。まあ、ESPやBYGのようなネタ成分には乏しいですが…。

もちろん、FMPやブロッツマンの特集でも都合のつくかぎり参加したいなと思ってます(今日の講演も、ブロッツマン・シカゴ・テンテットのTシャツ着て行きましたし・笑)。次回以降も期待してます!