Kamasi Washington / The Epic
マジメ感。
The Epic [帯解説 / 国内仕様輸入盤 / 3CD] (BRFD050)
- アーティスト: KAMASI WASHINGTON,カマシ・ワシントン
- 出版社/メーカー: BEAT RECORDS / BRAINFEEDER
- 発売日: 2015/05/16
- メディア: CD
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今更ですが、いま流行っている(らしい)カマシ・ワシントンの新譜を聴いてみました。タワレコ等のレコ屋で大々的にプッシュされているし、「カマシ・ワシントン」でgoogle検索・twitter検索してみると、絶賛コメントの嵐。来日ライブも好評だったみたいですね。
この人の音楽を聴くのは、本作がまったくの初めてでした。確かJTNC3で紹介を読んだような気がするし、フライング・ロータスらとやっているというのは何となく認識していたのですが、Youtube等でも彼の演奏は一切聴いておらず。先日ユニオンの新譜コーナーを見ていたときに、吉田隆一さんがカマシ・ワシントンのことを「絶対全力ブロウするマン」と称していたのを思い出し、衝動的に購入してしまいました[11月18日追記:コメント欄で吉田さんが補足してくださったので、ぜひご覧ください]。
3枚組約170分の大作。とりあえず3回聴いてみました。
Kamasi Washington - 'Re Run Home' - YouTube
1回目「あれ?なんか期待してたものと違…あれ?」
2回目「うーん、おそらくやりたいことのベクトルは好みなんだけど、何か物足りないなあ。」
3回目「この人絶対マジメな人だわ。」
ざっくりと感想をまとめるとこんな感じ。「コルトレーンやファラオに連なる王道のスピリチュアルジャズ」と喧伝されていて、私もそういうものだと思い込んで聴いてしまったのですが、60~70年代のブラックスピリチュアルもの(?)にあるような胡散臭さ、怪しさは皆無と言っていいのでは。確かにコーラスやストリングスが入って妙に壮大だったり、カマシのテナーがやや泥臭さを見せたりはします。でも、なんと言うか、すごく"ちゃんとしている"んですよね。サンダーキャットらのリズムセクションはすごく現代的だし、アレンジも決して適当に手を抜いたものではないでしょう。カマシのサックスも、所々でアツいソロを取ってますが、ファナティックに吠えまくるようなものではなく、ちゃんとコントロールされています(音色面でやや抜けが悪く、いまいち前に出てこないのがもどかしく感じたんですが、私の聴取環境が劣悪なせいなのか、ミックスの問題なのか。その辺ライブ行った人に聞いてみたいです)。
カマシへのインタビュー(by柳樂光隆さん、by原雅明さん)等を読むと、UCLAで民俗音楽と作曲を専攻したとのことで、高等教育受けてるんですよね。影響元もはっきりと公言していますし、結局本作はそれらの先達の音楽をきちんと研究して、丁寧に作り上げたマジメな力作なんだと思います。
それと、現代的なリズムセクションの上でスピリチュアルっぽいものをやるというのは、たぶんクラブジャズ界隈の人たちがずっとやってきたことではないでしょうか。柳樂さんが、「カマシはあそこまでストレートなジャズ作品なのに、ピッチフォークなどジャズ以外のメディアにも高く評価されているのもすごいですよね」と書いてますが、こういうものが保守的なジャズメディア以外で称賛されるというのはよく分かるような気がします。
ちなみに、今回本作のレビューや感想を色々読んでみて(めちゃくちゃいっぱいありました)一番しっくりきたのが、上記の発言を含む柳樂さんの紹介文(Mikiki掲載)でした。「ドラマティックなんだけど暑苦しくないんですよね。スピリチュアル・ジャズには、いろんなものが突出しているけど何かが欠けているといった不揃いな部分が多かったはずだけど、『The Epic』にはそういう欠けた部分が見当たらない」という指摘など、ものすごく的確。レコ屋の宣伝文句的な「ジャズの新時代」「革命児」「LA最先端」といった煽り文も山ほど見たんですが、そういうのは大半が言い過ぎですね。マジメな人が作ったマジメな作品として、ちゃんと聴いてあげるべきでしょう。
≪本文中にまとめきれなかった余談的なもの≫
・こちらの記事でカマシがMy Top5の1つとしてドルフィーの『Out to Lunch』を挙げている件(ドルフィーとLA)。
・本作収録の「チェロキー」のアレンジがすごく『天才ローランド・カークの復活』っぽい件。一時期のアーチー・シェップも想起。
・ジャズでPitchforkで高得点取ったのって何があるんだろうと思って検索してみたら、メアリー・ハルヴァーソン『Meltflame』やマタナ・ロバーツ『Coin Coin Chapter3』が出てきた件。
・↓「ブラックスピリチュアル」「豪快なテナー」というキーワードで連想していたものたち。
David S. Ware - Godspelized - YouTube
Joe McPhee - Nation Time - YouTube
アンディ・ハミルトン『リー・コニッツ ジャズ・インプロヴァイザーの軌跡』(2015年 DU BOOKS)
ようやく読了。
リー・コニッツのインタビュー本を読みました。注や年表も入れると約500頁にもなる大著。その大半を占めるのが、数年にわたる著者とコニッツの対談です。そして、その合間にはコニッツに関するミュージシャン等へのインタビューが挿入されていて、その数は約40にも上ります。このインタビューはどれも短いものですが、メンツがすさまじい。ビリー・バウアーやサル・モスカといったトリスターノ・スクールの面々に加え、ロリンズやオーネットらジャズ・ジャイアンツ、デイヴ・リーブマンにジョン・チカイ、エヴァン・パーカーまで!
正直に告白すると、私はコニッツの熱心なファンではありません。リーダー作は10枚くらいしか持ってないですね。たまに聴くと良いなと思うんですが、どうにもあの独特の音色が好みではなくて。愛聴盤と呼べるのは、↓これくらいかな。
レッド・ミッチェルとのデュオで、コール・ポーター集。たまにこういうのがあるからスティープル・チェイスもあなどれません。
あとはギル・エヴァンスとのデュオをたまに聴く程度。そんな非コニッツファンの私が読んでも、この本はめちゃくそ面白かったのです。かなりのボリュームですから、当然色んな話が出てくるわけですが、面白いと思ったポイントをざっくりまとめてみます。
ポイント①:コニッツのぶっちゃけ方
気に入らないミュージシャン(演奏)に対して容赦なくガンガン毒を吐いてます。自身のドラッグの使用歴についても、冗談交じりとは言え、まったく隠そうとしないぶっちゃけっぷり。チック・コリアに誘われてサイエントロジーにコミットしていた時期があったけど、金がかかりすぎるからやめたなんて話も。
20世紀のジャズジャイアンツの神話として、読み応え十分です。
ポイント②:コニッツのジャズ観
全編を通して見られるのが、コニッツの「メロディ」に対する執着です。ロリンズが「色々な曲に手を出す」ことに対して批判しているところがあるのですが、コニッツってAll the Things You Are等を延々と、執拗と言えるほどに演奏し続けてますよね。セシル・テイラーを聴いて、「しばらくの間はとても魅力的なんだよ、だけど伝統的な方法による何らかの形式とか、もっとメロディックなインタープレイがぜひとも欲しいね」なんて言葉も(p.305)。
そして、少し意外だったのは、コニッツが他のミュージシャンを評するときに、「スウィング」「リラックス」という言葉を多用していることでした。
結局のところ、コニッツにとって重要なのは、リラックスしたリズムの上でメロディをインプロヴァイズすることであって、基本的には「スウィングしなけりゃ意味ない」のです。コニッツを「硬派なインプロヴァイザー」と括ってしまうのは短絡的に過ぎるのだなと気づかされました。
ポイント③:他のミュージシャンのコニッツ評
まあ当然のことなのですが、インタビューを受けた人の大半がコニッツを絶賛しています。異口同音に、コニッツがいかに独創的であったかということを語り、パーカーのエピゴーネンだらけの状況でコニッツが登場したときの衝撃や、コニッツに対する「クール」というレッテルが誤りであること、コニッツが正当に評価されていないことなどが述べられています。その中で興味深い分析を行っているのが、ガンサー・シュラーやデイヴ・リーブマン、ポール・ブレイなど。サックスの奏法におけるパーカーからの影響、トリスターノとの異同などについて、普通のジャズ史本では踏み込めないところまで語っています。これはすごい。
そのほかにも、コニッツが「フュージョンもやってみたかったけど誰も呼んでくれなかった」なんて言っていたり、面白いところはまだまだあるので、ジャズファンには超おススメです。原著は2007年にミシガン大学出版局から出ているのですが、これを翻訳・出版した翻訳者とディスクユニオンブックスに感謝。今の日本でコニッツがどれくらい人気があるのか全然分からないんですが(私の通っているジャズ喫茶のマスターは「うちのお客さんでもコニッツ好きだって人はあんまりいないよ」って言ってました)、出版不況の中これを出した勇気は賞賛に値すると思います。拍手。
次はジョージ・ルイスのAACM本を出してくれないかなー(ボソッ
Resonance Ensemble / Double Arc
2015秋のヴァンダーマーク祭り、開幕のお知らせ。
Alto Saxophone, Bass Clarinet – Mikołaj Trzaska
Alto Saxophone, Tenor Saxophone – Dave Rempis
Baritone Saxophone, Clarinet [Bb] – Ken Vandermark
Bass – Mark Tokar
Clarinet [Bb], Alto Clarinet – Wacław Zimpel
Drums – Michael Zerang, Tim Daisy
Electronics [LLoopp] – Christof Kurzmann
Trombone – Steve Swell
Trumpet – Magnus Broo
Tuba – Per-Åke Holmlander
先日吉田野乃子さんの新譜(大傑作)の記事でもグチをこぼしてしまったのですが、8月に注文したケン・ヴァンダーマークの新譜がなかなか届かず、ここしばらくずっとヤキモキしていました。それがようやく発送連絡が着まして、おそらくあと1週間もすれば、フォトブック+2CD『Site Specific』、PNLとのデュオ『Lions Have Eaten One of the Guards』、Fred Loberg-Holmとのデュオ『Resistance』がまとめて届く予定です。少し前にResonance Ensembleの新譜も届いてまして、これからしばらくは久々にヴァンダーマーク漬けの日々を送ることになりそうです。
このResonanceの新譜は、ゲストにChristof Kurzmannを迎えていて、不穏な電子音で始まりますが、まあ基本的にいつもと同じヴァンダーマークの中編成の感じです。激かっこいいリフと、色んな組み合わせのインプロ。作曲と即興が溶け合ったというか、即興が組み込まれた作曲というか。
ところで、最近リー・コニッツのインタビュー本(『リー・コニッツ ジャズ・インプロヴァイザーの軌跡』。クッソ面白いです。そのうち紹介記事書くかも。)を少しずつ読み進めているんですが、そこで語られている「即興」観が興味深いなと思っています。コニッツは「メロディをインプロヴァイズする」という言い方をしていて、彼にとっての「インプロ」というのは、ほとんど「メロディの変奏」に近いもののように思います。コニッツは事前にストックしておいたフレーズの引用(クリシェ)を強く否定しますが、ゼロからまったく新しいものを生み出せと言っているのではなく、メロディを深く理解した上で、その瞬間瞬間で創造的なプレーをすることを「インプロヴァイズする」と呼んでいるようです。このインプロ観は、クリシェからの脱却という点は共通していても、「メロディ」や「ジャズ」からも抜け出そうとしたデレク・ベイリーらのそれとは別物でしょう。
※こうしたコニッツの見方には、チャーリー・パーカー(と有象無象のフォロワー)の出現という時代状況が大きく影響しているのだと思いますが、その話はまた別の機会に。
さて、Resonance Ensembleに話を戻すと、このバンドでのヴァンダーマークの「作曲と即興」に対するアプローチは、上記の二者ともまた違っていて。しかし、これって実は新奇なものというわけではなくて、まっとうに(フリー)ジャズ的なアプローチを発展させた1つの結果のような気がするんです。多種多様なバンド/プロジェクトを率いるヴァンダーマークですが、根っこのところには大きく「ジャズ」があるのではないかと。そこが個人的にすごく好きなところだったりするわけです。
≪参考動画・音源≫
過去作の音源ですが、一応これも貼っておきます。
ジャズにおける「作曲と即興」、あるいは「自由」の観念については、エリントンやエレクトリック期のギルオケも参照すると面白いことが考えられそうな気がしています(加藤総夫さんが指摘した「エリントン・固定的なのに自由に感じられるのはなぜか問題」など)。現代ジャズの「アンサンブルの時代」(©村井康司)、「New Chapter」(©柳樂光隆)を語る上でも重要な視点だと思うので、誰かガッツリ批評書いてくれないかなー(他力本願)。
吉田野乃子 Lotus
傑作。良作。快作。名作。佳作。秀作。どれでも良いですが、とにかく素晴らしいです。
気鋭のサックス奏者、吉田野乃子さんのソロ作を聴きました。多重録音を駆使した作曲作品や無伴奏の即興演奏など7曲を収録。中身については、JOEさんの記事が丁寧に解説しつつ熱く魅力を語っていますので、まずはそちらをご覧ください。
聴く前にこの記事を読んで若干ハードルが上がってたんですが、本作はそんなもの易々と飛び越えていきました。アルトの切れ味の鋭さだけでもシビれるのに、豊かにあふれ出るアイディアと、それを形にする卓越した演奏技術、構成力、実に見事です。収録時間は35分程度と短いですが、アルバム全体で一つの作品としての完成度・充実度がかなり高いように思います。
当ブログを読んでくれるような方なら、ここでごちゃごちゃ言わなくてもきっと楽しめるはず。めちゃくそカッコイイので、何はともあれ聴いてみることをオススメします。
参考動画
[10月28日]本作のサンプル動画(スペルミス修正版)がアップロードされたので追加します。
本作は吉田さんによる個人販売で、facebookやtwitterでメッセージを送ると購入できます。私はSNSやらない人間なので、「どうしたものやら…」と困ってたんですが、JOEさんの記事のコメント欄に吉田さんがメール注文もできる旨書き込んでくれたため、非常に助かりました。そのコメントを見て早速メール注文したところ、丁寧かつ迅速に対応してくださって、あっという間に届きました。
吉田さん、そしてJOEさん、ありがとうございました!
https://www.facebook.com/nonoko.yoshida.9
Nonoko Yoshida 吉田野乃子 (@nonokoyoshida) | Twitter
野乃屋レコーズ nonoko_yoshida@yahoo.co.jp
(完全に余談ですが、8月にCatalytic Soundに注文したヴァンダーマークの新作3種がまだ届きません。CD付フォトブック"Site Specific"の制作が遅れたらしく、10月12日以降には発送できるっぽいことを書いた謝罪メールも着たんですが、いまだに「オーダー処理中」の状態で止まっていて…。ぐぬぬ…。)
Evan Parker Electro Acoustic Septet / Seven
何とも恐ろしいメンツを集めたもんです。
Evan Parker(Ss), Peter Evans(Tp), Okkyung Lee(Vc), George Lewis(Electronics, Tb), Ikue Mori(Electronics), Sam Pluta(Electronics), Ned Rothenberg(Bcl, Cl, 尺八)
御茶ノ水のディスクユニオンに泉邦宏『きけとりさんのこえ』を買いに行った時に目に入ってしまったのが運の尽き。「最近出費多いし節約せねば」とか思っていたのもどこへやら、このメンツを見て手に取らないわけにはいきませんでした。若手のピーター・エヴァンスから重鎮ジョージ・ルイスまで、一癖も二癖もある人ばかり。
まずはこちらの動画をどうぞ。
Roulette TV: EVAN PARKER from Roulette Intermedium on Vimeo.
うーむ、カッコイイ。
この手の集団即興ものって、「せーのっ」でギャーギャー吠えまくるタイプのものは別として(そういうのも大好物ですが)、「なんでこの人数でやっているのか」が分からなくなるものが結構あると思います。先日、某海外ミュージシャン2名と日本人の即興演奏家2名が共演するライブを観に行ったんですが、途中で「なんだ、各自好きなことやってるだけじゃねーか」って思って退屈してしまったことがありました。それぞれの音は好きだし、彼らのリーダー作・参加作で愛聴している音源もたくさんあるにもかかわらず、です。その時、「この手のインプロセッション的なものは、何かしら枠付けしない限り、4人以上になるとキツいのでは」とか思ったんですよね。
その点、この七人編成の演奏は、それぞれの個性を強烈に発揮し、多彩に展開しながらも、うまいこと1つのうねりを作り上げているように感じました。そして、その中からエヴァンのソプラノが立ち上ってくる時の気持ち良さと言ったら!ロスコー・ミッチェルとの大編成での共演作を聴いたときにも思いましたが、こういうのはやっぱり好きだなあ。
本作のジャケット内側には、"My art of composition consists in choosing the right people and these are the right people"というエヴァンの言葉が。エレクトロニクスは誰が何やってんだかさっぱり分かりませんが(笑)、近年エヴァンが共演を重ねているオッキュン・リーやピーター・エヴァンスは本当に上手いことハマってると思います。エヴァンは来年の4月にも来日するようですが、いつか彼らを連れてきて欲しいと強く願っています。
ダウトミュージック10周年記念祭り・夜の部
10周年を祝うにふさわしいお祭り感。
2015年10月12日(月)ダウトミュージック10周年記念祭り・夜の部
JAZZ非常階段 feat. 梅津和時、菊地成孔、テンテンコ
ダウトミュージック10周年記念祭り、夜の部も観てきました。昼の部が終わったのが16時30分過ぎくらいだったかな。喫茶店でブログを更新し、軽くメシを食い、ディスクユニオン等をぶらついて時間をつぶして、20時からようやく待ちに待ったJAZZ非常階段がスタートしました。
JAZZ非常階段はこれまで二度(勝井祐二さんがゲストの回と、大友良英さん&山本精一さんがゲストの回)観ていますが、今回は何と菊地成孔さん&梅津和時さんが参加するということで、めちゃくちゃ楽しみにしてました。
1部は色々組み合わせを変えてのセッションでした。組み合わせと出演順は以下の通り。
①菊地成孔(As)、JOJO広重(Gt)、岡野太(Dr)
②梅津和時(As)、JUNKO(Vo)
③T.美川(Electronics)、テンテンコ(Electronics)
④菊地成孔(Rap、As)、T.美川(Electronics)、JUNKO(Vo)
⑤菊地成孔(As)、JOJO広重(Gt)
⑥梅津和時(As)、テンテンコ(Electronics)
⑦梅津和時(As)、岡野太(Dr)
期待していた菊地さんの演奏、見せ方(魅せ方)の上手さが「さすが」の一言。④で非常階段の2人のノイズにラップ(最近よくやってるフリースタイルというか「Catch22」の引用などなど)を乗せたのはまあ予想通りだったのですが、⑤のJOJO広重さんとのデュオで「いかにもジャズのアドリブっぽい」フレーズを淡々と吹いたのには驚かされました。どうにも口で説明しづらいのですが、それに対するJOJOさんの対応も面白くて、あそこだけ「ジャズでもノイズでもない何か」が生まれていたように思います。普段の発言や作品の提示の仕方から、「菊地成孔なにをやっててもパロディに見えちゃう問題」があると思っていて、あの場面もジャズをやっているというよりは、「あえてジャズっぽく見えるようにやっている」ように感じました。アグレッシブに高速で吹きまくる場面も多かった(超かっこよかった)んですが、それもラウンジリザーズ風に言うならば「フェイク・フリージャズ」みたいに見えてきたり。実を言うと、菊地さんのああいうポストモダン感というか、ある種の"器用さ"みたいなものは割と苦手だったりします。しかし、今回はそれが企画とうまいこと噛み合っていたのか、素直に楽しむことができました。
梅津さんのアルトもいつもながら切れ味鋭く、飛び道具的な特殊奏法(朝顔を太ももに押し当てたり、口にリードをくわえて指でビヨンビヨンと鳴らしながら吹いたり)も織り交ぜつつ、明るく爽やかに暴れまわっていて最高でした。②ではJUNKOさんの金切声と見事に溶け合っていて面白かったし、⑦の岡野太さんとのデュオなんてかっこよくないわけがないでしょう。客席が一番盛り上がったのも⑦だったと思います。
個人的に楽しめなかったのは、テンテンコさんの演奏。③も⑥も、シンプルなビートを延々ループさせてちょっとずつイジりながら、その上にノイズを重ねていくといったものでした。これは持論と言うか趣味の問題かもしれませんが、「ボトムのしっかりしすぎているノイズは面白くない」のではないかと。カオスの中から聴き手が色んなものを見出せるのがノイズの面白さだと思っていて、一定のリズムパターンのまま通されると、ノイズ成分が色付け程度にしか見えなくなってしまうことがありまして…(初音階段やBiS階段のような「うたものノイズ」に興味を持てないのも、そこに原因があるような気がしています)。
2部は例のごとく全員のセッションで、ぐちゃぐちゃな誰が何をやっているのかほとんど分からない状態に突入。こうなってしまうと耳もやられて展開も何も聴き取れないんですが、その中では岡野さんのドラムの存在感が際立っていました。長尺の演奏で聴き手も疲れてきた後半に、髪を振り乱しながら鬼のように乱打していたのが激アツ。梅津・菊地・JOJOというベテラン3人のステージングも見事。菊地さんが吹きまくっているところに梅津さんがやおら近づき、2人で同じマイクに向かって猛然と吹き始めると、それを見たJOJOさんがすぐさま2人の後ろに!冷静に考えると小柄な中年男性が3人並んでいるだけとも言えるんですが(笑)、あの図はやっぱりかっこよかった。
昼夜2公演観たらさすがに疲れてしまって、昨日は帰宅してすぐ寝てしまいましたが、しかし楽しい祭りでした。信頼と安心のダウトミュージック、今後も面白い音源を出し続けてくれることを期待しています。祝10周年!
<おまけ・ダウトミュージックの愛聴盤5選>
一押しはこれ。アイディアの面白さが目をひきますが、サックス奏者としての実力も折り紙付き。
サックスのヤバい音の見本市のような作品。圧倒されます。
- アーティスト: blacksheep
- 出版社/メーカー: doubtmusic
- 発売日: 2011/03/13
- メディア: CD
- 購入: 2人 クリック: 21回
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blacksheepの1stと2ndもダウトから。どちらも傑作です。
ダウトと言えば大友良英作品。アイラーやオーネット、ドルフィーのカバー集も面白いです。
これ単体で面白いんですが、 ダウトミュージック作品のサンプルとしても使えちゃいます。
改めてカタログを見返してみると、持っているのは半分くらいでした。まだ入手できていないものの中にも面白そうなものがたくさんあるので、ちょこちょこ集めていきたいなと思ってます。
2015年10月12日(月)ダウトミュージック10周年記念祭り・昼の部
夜の部まで時間があるので、今のうちにサクっと記録をまとめておこうかと。
10月12日(月)ダウトミュージック10周年記念祭り・昼の部
今井和雄(Gt)、広瀬淳二(Ts)、沼田順(Gt etc.)
信頼と安心のレーベル、ダウトミュージックが10周年を迎えたということで、その記念ライブに行ってきました。今日は新宿ピットインで昼夜二公演あるのですが、昼の部は今井和雄&広瀬淳二という超強烈なインプロバイザー2人と、レーベル社長の沼田順さんの共演。
今井和雄さんのライブ演奏を観るのは相当久しぶりで、たぶん2006年か2007年くらいにノイズ系のイベントで観て以来。高円寺20000Vだったか、新大久保EARTH DOMだったか、詳細は覚えてませんがENDON絡みのイベントだったような。凶悪なノイズをまき散らすバンド/ユニットの出演が続く中、ギター1本抱えてステージに上がった今井さんが凄まじい迫力の演奏をしていたのが強く印象に残っています。その今井さんと広瀬淳二さんの共演ということで、これは見逃すわけにはいかないと思って昼間からピットインへ。
一部は、今井・広瀬→今井・沼田→広瀬・沼田の順でデュオを3本。二部は、3人全員での演奏1本+アンコールという構成でした(どーでもいい余談ですが、一部と二部の間の休憩時間には、BGMとしてオーネットの『サウンド・グラマー』が流れてました)。
楽しみにしていた今井さんのギター、やはりすさまじかったです。ミュートした硬質な音をバキバキ鳴らしていたと思ったら、残響を巧みにコントロールして"発狂したビル・フリゼール"的な演奏をしたり、細長い金属の棒を弦に挟んでチェーンのようなものでゴリゴリとパーカッシブに鳴らしたり、展開が多彩。しかも、それらすべてが圧倒的なスピード感と迫力を持っていて、聴いていて思わず笑けてきてしまうかっこよさ。それに広瀬さんのサックスのえげつない音が絡むのだから、もうたまらんですよ、これは。沼田社長のギターetc.は、始めは手探り感もあるように思いましたが、カオティックなノイズパートでは要所要所でかっちょいい音を繰り出していました。
まずは昼の部、良いライブでした。特に前半の今井・広瀬デュオは、今年観たライブの中でもベスト級かも。夜の部のジャズ非常階段も楽しみにしています。
<参考?動画>
ノイズ電車 - フェスティバルFUKUSHIMA! 世界同時多発イベント - YouTube
ちょうどよい動画がなかったので、こんなものを。2:15頃から広瀬淳二さんが。