尾川雄介・塚本謙『インディペンデント・ブラック・ジャズ・オブ・アメリカ』
またまた本の紹介です。
60年代末~ 70年代にかけて黒人ジャズマンが立ち上げた自主レーベル(ストラタ・イースト!ブラック・ジャズ!インディア・ナヴィゲーション!)のディスクガイド。ディスクカタログやレビューのみならず、レーベル創立者へのインタビュー、当時のフライヤーの写真やコラムなど、かなりの充実度です。
スタンリー・カウエルらへのインタビューは、当時の時代背景・音楽シーンの状況などを生々しく描き出すことに成功しており、読み物として非常に面白いです。コラムは分量が少ないのが残念ですが、BAGやAACMなどの非営利ミュージシャン団体やロフト・ジャズについて取り上げているのがほんっっっとうに素晴らしい。
このブログでも少し書いたことがあるのですが、日本のジャズ評論にありがちな「ジャズ正史」的なものは、こうしたロフト・ジャズ周辺をほぼスルーしてきたように思います。「レア・グルーヴ」だとか、「スピリチュアル・ジャズ」みたいな語り口で再評価されることはあっても(個人的にはこれらの括り方にピンと来ていません)、音楽としての面白さを正面から取り上げたものってほとんどないのでは?この辺りのものは玉石混淆で、今聴くとアレなものもかなりありますが、面白いものも相当あると思うのです。
本書は評論の要素が多い本ではないので、「今日」のことを語っていないというのが若干物足りない感もありますが、あの時代のブラック・コンシャスなジャズについての情報をまとめたというだけでも大変に価値のある本だと思います。それなりに詳しいつもりでいた私も全然知らない作品がけっこうありましたし、これはおススメです。
≪関連作品など≫
Archie Shepp - Quiet Dawn - YouTube
本書を読んで、久々にCDラックから引っ張り出して聴きました。最高。
Matana Roberts - Thanks Be You / Humility Draws ...
Matana RobertsのCoin Coinプロジェクトは、近年のブラック・コンシャスなジャズの最高峰ではないかと。
Hamiet Bluiett Quartet『SOS』
収録作品の中で個人的に思い入れの深い1枚がこれ。Hamiet Bluiett(Bs, Cl, Fl)、Don Pullen(Pf)、Fred Hopkins(B)、Don Moye (Perc)という豪華なメンツ。この辺のものって評論で取り上げられないだけでなく、CD化されていなかったり、廃盤になっているものがめちゃくちゃ多いんですよね。商業的に売れないからってことなんでしょうが、再評価が進むことを願っています。
Jazz The New Chapter~ロバート・グラスパーから広がる現代ジャズの地平 (シンコー・ミュージックMOOK)
- 作者: 柳樂光隆
- 出版社/メーカー: シンコーミュージック
- 発売日: 2014/02/14
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自分が書いたこのブログでの紹介記事を読み直したら、グチグチと不満を前面に出した 語り口になってしまっていましたが、基本的には「絶賛」のつもりで紹介しました。「同時代のジャズを語る」ということ自体が停滞しきったジャズ批評を更新する可能性を秘めた試みですし、そもそも細かいところにケチを付けたくなるようなジャズ本なんて他にほとんどなかったわけですよ。
批評や紹介のあり方についての問題提起まで含んでいるこの本がスルーされたり、手放しで称賛されるだけに留まるようでは、いよいよこの国のジャズ批評は終わりだと思っています。この本をきっかけに異論や反論を含んだ議論がもっと盛んになって、別の視点から同時代のジャズを語ったり、紹介したりするものがどんどん出てくれば良いのですが…。特にフリー・アヴァンギャルド寄りの面白い本が出てくることを切に望んでいます。