たぶん思ったことあんまりまちがってない

ジャズ アルバム紹介やライブの感想など 

Virginia Genta, Dag Stiberg, Jon Wesseltoft, David Vanzan / DET KRITISKE PUNKT

前回更新から大分間が空いてしまいましたが、なんとか生きています。

 

 

Det Kritiske Punkt [12 inch Analog]

Det Kritiske Punkt [12 inch Analog]

 

Virginia Genta(Ts, Melodica, Wood Flute), Dag Stiberg(As, Khaen), Jon Wesseltoft(Gt, Electronics), David Vanzan(Dr, Per)

 

 

いくつか大事な締め切りを抱えていまして、ここしばらくはクッソ忙しく、ブログを更新する余裕がありませんでした。四谷いーぐるでのblacksheep『+ -Beast-』試聴会に行って吉田隆一さんと少しカマシ・ワシントンの話をしたこととか、The Thing with 今井和雄、坂田明がめちゃくそかっこよかったこととか、記事化しようと思ってたことはいくつかあったんですけどね…。まだまだ2月までは忙しい日々が続くのですが、とりあえず今回取り上げる作品だけは今年中に紹介しておきたいと思いまして。

 

イタリアのVirginia GentaDavid VanzanノルウェーDag StibergJon Wesseltoftの4人(全員正確な発音がわからない 笑)によるパワー系ゴリゴリのフリージャズ/ノイズです。基本的に嵐のような轟音がずっと続くんですが、鈍重な感じはなく、LP両面の最後まで興奮状態が維持されるのが素晴らしい。心地よくノイズに身を委ねることができて、無駄に頭使う必要がないのがサイコーですね。癒されます。

…とはいえ、ただ無軌道にデタラメやってるだけでもなく、それなりに演奏者間のやり取りや変化があるし、何よりVirginia Gentaの音の説得力がハンパないです。何年か前に↓の動画を観て惚れ込んでいたんですが、この人めちゃくちゃイイ。

 


VIRGINIA GENTA & CHRIS CORSANO live in Lisbon, August 2008

何度見てもカッコイイ。サックスを上下に振りながら吹く姿もアツい。

 

個人的に音一発でやられちゃうっていうサックス奏者が何人かいるんですが(広瀬淳二、一時期のアーチー・シェップガトー・バルビエリ等)、この人もその1人です。ちなみに、ググっていたらこの人に対するメールインタビューを発見して(前半後半)、その中で「阿部薫に少し似ている」という話が出てたんですが、そんなに似てないというか、アプローチはだいぶ違うような気がします(しかしこのインタビュー、イタリアのフリージャズ事情なんかも話されていて実に興味深いです)。

彼女のHPを見ると、結構たくさん作品出しているし、ヨーロッパや北米でツアーもやってるみたいです。しかし、LPやカセットでのリリースが多く、日本では流通していないものばかり。何とかして来日してくれたら、物販で色々買い漁りたいんだけどなあ…。本作もLPのみのリリースで、しかも150枚限定のようですが、今ならAmazon等で簡単に購入できますので、この手のフリージャズやノイズ、インプロが好きな方はぜひ。オススメです!!

 

 

≪参考動画≫


JOOKLO DUO @ Philadelphia, April 4, 2014 (1)

この2人は長年「Jooklo」という言葉を入れたユニットを色々やっているようです。youtubeにはプリペアドピアノを弾いている動画なんかも。

 


Maranata @ SuperDeluxe - March 2009

ノルウェーの2人の来日ライブの映像。ドラムはにせんねんもんだいの人。動画の投稿者はLasse Marhaug本人なのかな?

 

 

2015年11月22日(日)Ftarri Festival 2015@六本木Super Deluxe

もう何日か経っちゃいましたが、一応簡単な記録を残しておきます。

 

2015年11月22日(日)Ftarri Festival 2015@六本木Super Deluxe

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即興、実験音楽、特殊音楽etc.のレーベル/ショップを運営するFtarriのイベントに行ってきました。Ftarriは水道橋に実店舗を持っていて(品揃えヤバし。ポイントカードのサービスも超充実)、そこでライブイベント等もやっているのですが、今回は2日間にわたる大きなイベントで、会場は六本木のスパデラでした。2日目だけ参加した私の目当ては、イギリスのサックス奏者ジョン・ブッチャー2年前に横浜エアジンで観たソロのライブが忘れられず、なんとしてでも観たいと思っていました。

 

当日のタイムテーブルは以下の通り(Ftarriのサイトより)。

 

午後3時 第一部(演奏時間:各25分)

・ユエン・チーワイ (エレクトロニクス) + 川口貴大 (ホーン、風、煙、ほか) + 徳永将豪(アルト・サックス)

・島田英明 (電子変調ヴァイオリン) + ヤン・ジュン (エレクトロニクス) + 康勝栄 (エレクトロニクス)

 

午後4時05分 第二部(演奏時間:40分)

・杉本拓作曲『Septet』
演奏:杉本拓 (ギター) + 大蔵雅彦 (クラリネット) + 池田陽子 (ヴィオラ) + 池田若菜 (フルート) + マティヤ・シェランダー (コントラバス) + 入間川正美 (チェロ) + 宇波拓 (サイン波)

 

午後5時 第三部(演奏時間:20分)

・スティーヴン・コーンフォード作『Digital Audio Film』

(3台のプロジェクターを使った映像とサウンド)
プロジェクター操作:スティーヴン・コーンフォード
演奏:スティーヴン・コーンフォード (CD プレイヤー) + パトリック・ファーマー (CD プレイヤー) + 河野円 (CD プレイヤー)
テクニカル・アドヴァイザー:田巻真寛

 

午後5時40分 第四部(演奏時間:各25~50分)

・中村としまる (ノーインプット・ミキシング・ボード) + 秋山徹次 (ギター) + リュウ・ハンキル (ラップトップ)
・The International Nothing:ミヒャエル・ティーケ (クラリネット) + カイ・ファガシンスキー (クラリネット)

 

午後7時35分 第五部(演奏時間:各40分)

鈴木昭男 (アナラポス、ほか) + 大友良英 (ギター、ほか) + Sachiko M (サインウェイヴ)
・ジョン・ブッチャー (テナー・サックス、ソプラノ・サックス) + ロードリ・デイヴィス (エレクトリック・ハープ)

 

ご覧の通り、15時から21時の長丁場。一度に何組も出るイベントってあまり好きではなくて(集中力がもたないし、各組の演奏時間が短くなるのが…)、ブッチャーの出る後半だけでも良いかなとも思ったのですが、『Alto Saxophone2』の印象が鮮烈だった徳永将豪さんの演奏が観たくて、最初から参加することに。午前中に教会の礼拝に出席し(私はプロテスタントのクリスチャンなので)、昼食を済ませて、急いで電車に飛び乗りました。会場に着くと、当日九州から飛行機で駆け付けた(!)というid:yoroszさんが。近くに座って、休憩時間に少しお話もしながら、最後までライブを鑑賞しました。

 

もう数日経っていますし、8組も出たのですべてにコメントはしません。特に印象に残った2組のことだけ記しておきます。

 

 ・杉本拓作曲『Septet』

7人の演奏者が、一定の持続音を約40分間ひたすら繰り返すという作曲作品。聴き始めは、「ああ、よくあるミニマル的なアレか。ちょっと期待外れかな」とか思ってしまったのですが、数十分も続くと聴き手(私)の意識に変化が迫られました。極端に変化の乏しい音にじっと耳を傾けているうちに、「これ演奏者にとっては地獄だろ」と演奏者の身体や意識に対する想像力が喚起させられたり、目の前で起こっていること(演奏)を今まで見聞きしてきたものに当てはめようとする自分の心性に気づかされたり。そうこうしていると、ほぼ"何も起こらない"ままに演奏は終了。
「音(音楽)を聴くことの意味を問う」みたいなコンセプトを前面に出すようなもの(特にサウンドアート/インスタレーションの類)って、陳腐でどうでもよく感じるものも多いのですが、この『Septet』はなかなか面白い体験でした。聴いてて辛くなってくる恐ろしい音楽なので、CD買って家で聴くことはしませんが笑。

 

・ジョン・ブッチャー (テナー・サックス、ソプラノ・サックス) + ロードリ・デイヴィス (エレクトリック・ハープ)

 

映像では二種のハープを使っているロードリですが、今回は机に置いた小さいハープのみ。

 

ジョン・ブッチャー、さすがでした。恐ろしい集中力で、次々とアイディアが湧き出してくるような演奏。前衛・即興系の人がよくやるように、ブッチャーもキーのカチャカチャ音をマイクで拡張するなどの特殊な奏法を使うんですが、それらすべてが「音楽的」に聴こえるんですよね。2年前のエアジンの時のような「頭の中で直接鳴り響く感覚」を得ることはできませんでしたが、素晴らしい演奏でした。これ、早稲田茶箱稲毛CANDYのような狭い箱で、生音で聴けたら最高だったと思います。

 

全体を振り返ってみて思うのは、休憩時間にyoroszさんと話したことでもあるんですが、どうやら私は「身体性」を捨象したり、切り離したり、漂白しようとする音楽には興味を持ちづらいようです。それが即興演奏でも、作曲作品でも。もちろん、エレクトロニクスはNGとかそういう話ではありません(たとえばIncapacitantsのライブなどは身体性の塊を思いっきりぶつけられるように感じます)。しかし、自分が管楽器の演奏を偏愛しているのは、演奏者の身体の構造や奏法、セッティング等々によって、「個」の違いが強烈に出るというのが大きいんですよね。あくまで私の趣味の問題ですが、身体性を(意図的に)漂白するような演奏は、そうした「個」の面白さが見えにくいような気がしていて。個々の演奏者の「その人にしかない音」がはっきりとあって、それが共演者の音と調和したり、ぶつかったり、ハミ出したりしながら何かを生み出すようなところに、私は音楽を聴く喜び(自由)を感じています。

 

その意味で、ジョン・ブッチャーの演奏は、今の私にとってほぼ理想的なものでした。身体と直結したサックスという楽器の可能性を拡張し、なおかつ共演者との関係の中でお互いに新しいものをどんどん引き出していくような演奏。

今回、スケジュールの都合で1度しかライブを観られなかったのが本当に残念です。また近いうちに来日してくれることを心から期待しています。

 

 

Kamasi Washington / The Epic

マジメ感。


The Epic [帯解説 / 国内仕様輸入盤 / 3CD] (BRFD050)

The Epic [帯解説 / 国内仕様輸入盤 / 3CD] (BRFD050)

  • アーティスト: KAMASI WASHINGTON,カマシ・ワシントン
  • 出版社/メーカー: BEAT RECORDS / BRAINFEEDER
  • 発売日: 2015/05/16
  • メディア: CD
  • この商品を含むブログを見る
 

 

 

今更ですが、いま流行っている(らしい)カマシ・ワシントンの新譜を聴いてみました。タワレコ等のレコ屋で大々的にプッシュされているし、「カマシ・ワシントン」でgoogle検索・twitter検索してみると、絶賛コメントの嵐。来日ライブも好評だったみたいですね。

この人の音楽を聴くのは、本作がまったくの初めてでした。確かJTNC3で紹介を読んだような気がするし、フライング・ロータスらとやっているというのは何となく認識していたのですが、Youtube等でも彼の演奏は一切聴いておらず。先日ユニオンの新譜コーナーを見ていたときに、吉田隆一さんがカマシ・ワシントンのことを「絶対全力ブロウするマン」と称していたのを思い出し、衝動的に購入してしまいました[11月18日追記:コメント欄で吉田さんが補足してくださったので、ぜひご覧ください]。

 

 

3枚組約170分の大作。とりあえず3回聴いてみました。


Kamasi Washington - 'Re Run Home' - YouTube

 

1回目「あれ?なんか期待してたものと違…あれ?」

2回目「うーん、おそらくやりたいことのベクトルは好みなんだけど、何か物足りないなあ。」

3回目「この人絶対マジメな人だわ。」

 

ざっくりと感想をまとめるとこんな感じ。「コルトレーンファラオに連なる王道のスピリチュアルジャズ」と喧伝されていて、私もそういうものだと思い込んで聴いてしまったのですが、60~70年代のブラックスピリチュアルもの(?)にあるような胡散臭さ、怪しさは皆無と言っていいのでは。確かにコーラスやストリングスが入って妙に壮大だったり、カマシのテナーがやや泥臭さを見せたりはします。でも、なんと言うか、すごく"ちゃんとしている"んですよね。サンダーキャットらのリズムセクションはすごく現代的だし、アレンジも決して適当に手を抜いたものではないでしょう。カマシのサックスも、所々でアツいソロを取ってますが、ファナティックに吠えまくるようなものではなく、ちゃんとコントロールされています(音色面でやや抜けが悪く、いまいち前に出てこないのがもどかしく感じたんですが、私の聴取環境が劣悪なせいなのか、ミックスの問題なのか。その辺ライブ行った人に聞いてみたいです)。

 

カマシへのインタビュー(by柳樂光隆さん、by原雅明さん)等を読むと、UCLAで民俗音楽と作曲を専攻したとのことで、高等教育受けてるんですよね。影響元もはっきりと公言していますし、結局本作はそれらの先達の音楽をきちんと研究して、丁寧に作り上げたマジメな力作なんだと思います。


それと、現代的なリズムセクションの上でスピリチュアルっぽいものをやるというのは、たぶんクラブジャズ界隈の人たちがずっとやってきたことではないでしょうか。柳樂さんが、「カマシはあそこまでストレートなジャズ作品なのに、ピッチフォークなどジャズ以外のメディアにも高く評価されているのもすごいですよね」と書いてますが、こういうものが保守的なジャズメディア以外で称賛されるというのはよく分かるような気がします。

 

ちなみに、今回本作のレビューや感想を色々読んでみて(めちゃくちゃいっぱいありました)一番しっくりきたのが、上記の発言を含む柳樂さんの紹介文(Mikiki掲載)でした。「ドラマティックなんだけど暑苦しくないんですよね。スピリチュアル・ジャズには、いろんなものが突出しているけど何かが欠けているといった不揃いな部分が多かったはずだけど、『The Epic』にはそういう欠けた部分が見当たらない」という指摘など、ものすごく的確。レコ屋の宣伝文句的な「ジャズの新時代」「革命児」「LA最先端」といった煽り文も山ほど見たんですが、そういうのは大半が言い過ぎですね。マジメな人が作ったマジメな作品として、ちゃんと聴いてあげるべきでしょう。

 

 

≪本文中にまとめきれなかった余談的なもの≫

こちらの記事でカマシがMy Top5の1つとしてドルフィーの『Out to Lunch』を挙げている件(ドルフィーとLA)。

・本作収録の「チェロキー」のアレンジがすごく『天才ローランド・カークの復活』っぽい件。一時期のアーチー・シェップも想起。

・ジャズでPitchforkで高得点取ったのって何があるんだろうと思って検索してみたら、メアリー・ハルヴァーソン『Meltflame』マタナ・ロバーツ『Coin Coin Chapter3』が出てきた件。
・↓「ブラックスピリチュアル」「豪快なテナー」というキーワードで連想していたものたち。

 

 


David S. Ware - Godspelized - YouTube

 


Joe McPhee - Nation Time - YouTube

 

 

 

アンディ・ハミルトン『リー・コニッツ ジャズ・インプロヴァイザーの軌跡』(2015年 DU BOOKS)

ようやく読了。

 

 

リー・コニッツ ジャズ・インプロヴァイザーの軌跡

リー・コニッツ ジャズ・インプロヴァイザーの軌跡

 

 

 

リー・コニッツのインタビュー本を読みました。注や年表も入れると約500頁にもなる大著。その大半を占めるのが、数年にわたる著者とコニッツの対談です。そして、その合間にはコニッツに関するミュージシャン等へのインタビューが挿入されていて、その数は約40にも上ります。このインタビューはどれも短いものですが、メンツがすさまじい。ビリー・バウアーサル・モスカといったトリスターノ・スクールの面々に加え、ロリンズオーネットらジャズ・ジャイアンツ、デイヴ・リーブマンジョン・チカイエヴァン・パーカーまで!

正直に告白すると、私はコニッツの熱心なファンではありません。リーダー作は10枚くらいしか持ってないですね。たまに聴くと良いなと思うんですが、どうにもあの独特の音色が好みではなくて。愛聴盤と呼べるのは、↓これくらいかな。

 

I Concentrate on You

I Concentrate on You

 

レッド・ミッチェルとのデュオで、コール・ポーター集。たまにこういうのがあるからスティープル・チェイスもあなどれません。

 

あとはギル・エヴァンスとのデュオをたまに聴く程度。そんな非コニッツファンの私が読んでも、この本はめちゃくそ面白かったのです。かなりのボリュームですから、当然色んな話が出てくるわけですが、面白いと思ったポイントをざっくりまとめてみます。

 


ポイント①:コニッツのぶっちゃけ方
気に入らないミュージシャン(演奏)に対して容赦なくガンガン毒を吐いてます。自身のドラッグの使用歴についても、冗談交じりとは言え、まったく隠そうとしないぶっちゃけっぷり。チック・コリアに誘われてサイエントロジーにコミットしていた時期があったけど、金がかかりすぎるからやめたなんて話も。
20世紀のジャズジャイアンツの神話として、読み応え十分です。

 

 

ポイント②:コニッツのジャズ観
全編を通して見られるのが、コニッツの「メロディ」に対する執着です。ロリンズが「色々な曲に手を出す」ことに対して批判しているところがあるのですが、コニッツってAll the Things You Are等を延々と、執拗と言えるほどに演奏し続けてますよね。セシル・テイラーを聴いて、「しばらくの間はとても魅力的なんだよ、だけど伝統的な方法による何らかの形式とか、もっとメロディックインタープレイがぜひとも欲しいね」なんて言葉も(p.305)。
そして、少し意外だったのは、コニッツが他のミュージシャンを評するときに、「スウィング」「リラックス」という言葉を多用していることでした。
結局のところ、コニッツにとって重要なのは、リラックスしたリズムの上でメロディをインプロヴァイズすることであって、基本的には「スウィングしなけりゃ意味ない」のです。コニッツを「硬派なインプロヴァイザー」と括ってしまうのは短絡的に過ぎるのだなと気づかされました。

 

 

ポイント③:他のミュージシャンのコニッツ評
まあ当然のことなのですが、インタビューを受けた人の大半がコニッツを絶賛しています。異口同音に、コニッツがいかに独創的であったかということを語り、パーカーのエピゴーネンだらけの状況でコニッツが登場したときの衝撃や、コニッツに対する「クール」というレッテルが誤りであること、コニッツが正当に評価されていないことなどが述べられています。その中で興味深い分析を行っているのが、ガンサー・シュラーデイヴ・リーブマンポール・ブレイなど。サックスの奏法におけるパーカーからの影響、トリスターノとの異同などについて、普通のジャズ史本では踏み込めないところまで語っています。これはすごい。

 


そのほかにも、コニッツが「フュージョンもやってみたかったけど誰も呼んでくれなかった」なんて言っていたり、面白いところはまだまだあるので、ジャズファンには超おススメです。原著は2007年にミシガン大学出版局から出ているのですが、これを翻訳・出版した翻訳者とディスクユニオンブックスに感謝。今の日本でコニッツがどれくらい人気があるのか全然分からないんですが(私の通っているジャズ喫茶のマスターは「うちのお客さんでもコニッツ好きだって人はあんまりいないよ」って言ってました)、出版不況の中これを出した勇気は賞賛に値すると思います。拍手。

 

次はジョージ・ルイスのAACM本を出してくれないかなー(ボソッ

 

Resonance Ensemble / Double Arc

2015秋のヴァンダーマーク祭り、開幕のお知らせ。

 

 

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Alto Saxophone, Bass Clarinet – Mikołaj Trzaska
Alto Saxophone, Tenor Saxophone – Dave Rempis
Baritone Saxophone, Clarinet [Bb] – Ken Vandermark
Bass – Mark Tokar
Clarinet [Bb], Alto Clarinet – Wacław Zimpel
Drums – Michael Zerang, Tim Daisy
Electronics [LLoopp] – Christof Kurzmann
Trombone – Steve Swell
Trumpet – Magnus Broo
Tuba – Per-Åke Holmlander

 

 

先日吉田野乃子さんの新譜(大傑作)の記事でもグチをこぼしてしまったのですが、8月に注文したケン・ヴァンダーマークの新譜がなかなか届かず、ここしばらくずっとヤキモキしていました。それがようやく発送連絡が着まして、おそらくあと1週間もすれば、フォトブック+2CD『Site Specific』PNLとのデュオ『Lions Have Eaten One of the Guards』Fred Loberg-Holmとのデュオ『Resistance』がまとめて届く予定です。少し前にResonance Ensembleの新譜も届いてまして、これからしばらくは久々にヴァンダーマーク漬けの日々を送ることになりそうです。


このResonanceの新譜は、ゲストにChristof Kurzmannを迎えていて、不穏な電子音で始まりますが、まあ基本的にいつもと同じヴァンダーマークの中編成の感じです。激かっこいいリフと、色んな組み合わせのインプロ。作曲と即興が溶け合ったというか、即興が組み込まれた作曲というか。

 

ところで、最近リー・コニッツのインタビュー本(リー・コニッツ ジャズ・インプロヴァイザーの軌跡』。クッソ面白いです。そのうち紹介記事書くかも。)を少しずつ読み進めているんですが、そこで語られている「即興」観が興味深いなと思っています。コニッツは「メロディをインプロヴァイズする」という言い方をしていて、彼にとっての「インプロ」というのは、ほとんど「メロディの変奏」に近いもののように思います。コニッツは事前にストックしておいたフレーズの引用(クリシェ)を強く否定しますが、ゼロからまったく新しいものを生み出せと言っているのではなく、メロディを深く理解した上で、その瞬間瞬間で創造的なプレーをすることを「インプロヴァイズする」と呼んでいるようです。このインプロ観は、クリシェからの脱却という点は共通していても、「メロディ」や「ジャズ」からも抜け出そうとしたデレク・ベイリーらのそれとは別物でしょう。

※こうしたコニッツの見方には、チャーリー・パーカー(と有象無象のフォロワー)の出現という時代状況が大きく影響しているのだと思いますが、その話はまた別の機会に。

 

さて、Resonance Ensembleに話を戻すと、このバンドでのヴァンダーマークの「作曲と即興」に対するアプローチは、上記の二者ともまた違っていて。しかし、これって実は新奇なものというわけではなくて、まっとうに(フリー)ジャズ的なアプローチを発展させた1つの結果のような気がするんです。多種多様なバンド/プロジェクトを率いるヴァンダーマークですが、根っこのところには大きく「ジャズ」があるのではないかと。そこが個人的にすごく好きなところだったりするわけです。

 

 

≪参考動画・音源≫ 

 

過去作の音源ですが、一応これも貼っておきます。 

 

 

リー・コニッツ ジャズ・インプロヴァイザーの軌跡

リー・コニッツ ジャズ・インプロヴァイザーの軌跡

 

 ジャズにおける「作曲と即興」、あるいは「自由」の観念については、エリントンやエレクトリック期のギルオケも参照すると面白いことが考えられそうな気がしています(加藤総夫さんが指摘した「エリントン・固定的なのに自由に感じられるのはなぜか問題」など)。現代ジャズの「アンサンブルの時代」(©村井康司)、「New Chapter」(©柳樂光隆)を語る上でも重要な視点だと思うので、誰かガッツリ批評書いてくれないかなー(他力本願)。

 

 

吉田野乃子 Lotus

傑作。良作。快作。名作。佳作。秀作。どれでも良いですが、とにかく素晴らしいです。

 

 

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気鋭のサックス奏者、吉田野乃子さんのソロ作を聴きました。多重録音を駆使した作曲作品や無伴奏の即興演奏など7曲を収録。中身については、JOEさんの記事が丁寧に解説しつつ熱く魅力を語っていますので、まずはそちらをご覧ください。

聴く前にこの記事を読んで若干ハードルが上がってたんですが、本作はそんなもの易々と飛び越えていきました。アルトの切れ味の鋭さだけでもシビれるのに、豊かにあふれ出るアイディアと、それを形にする卓越した演奏技術、構成力、実に見事です。収録時間は35分程度と短いですが、アルバム全体で一つの作品としての完成度・充実度がかなり高いように思います。

当ブログを読んでくれるような方なら、ここでごちゃごちゃ言わなくてもきっと楽しめるはず。めちゃくそカッコイイので、何はともあれ聴いてみることをオススメします。

 


参考動画

 

 

[10月28日]本作のサンプル動画(スペルミス修正版)がアップロードされたので追加します。 

 

本作は吉田さんによる個人販売で、facebooktwitterでメッセージを送ると購入できます。私はSNSやらない人間なので、「どうしたものやら…」と困ってたんですが、JOEさんの記事のコメント欄に吉田さんがメール注文もできる旨書き込んでくれたため、非常に助かりました。そのコメントを見て早速メール注文したところ、丁寧かつ迅速に対応してくださって、あっという間に届きました。
吉田さん、そしてJOEさん、ありがとうございました!

 

https://www.facebook.com/nonoko.yoshida.9

Nonoko Yoshida 吉田野乃子 (@nonokoyoshida) | Twitter

野乃屋レコーズ nonoko_yoshida@yahoo.co.jp 

 

 

 

(完全に余談ですが、8月にCatalytic Soundに注文したヴァンダーマークの新作3種がまだ届きません。CD付フォトブック"Site Specific"の制作が遅れたらしく、10月12日以降には発送できるっぽいことを書いた謝罪メールも着たんですが、いまだに「オーダー処理中」の状態で止まっていて…。ぐぬぬ…。)

 

 

 

Evan Parker Electro Acoustic Septet / Seven

何とも恐ろしいメンツを集めたもんです。

 

 

Electroacoustic Septet Seven

Electroacoustic Septet Seven

 

Evan Parker(Ss), Peter Evans(Tp), Okkyung Lee(Vc), George Lewis(Electronics, Tb), Ikue Mori(Electronics), Sam Pluta(Electronics), Ned Rothenberg(Bcl, Cl, 尺八)

 

 

御茶ノ水ディスクユニオン泉邦宏『きけとりさんのこえ』を買いに行った時に目に入ってしまったのが運の尽き。「最近出費多いし節約せねば」とか思っていたのもどこへやら、このメンツを見て手に取らないわけにはいきませんでした。若手のピーター・エヴァンスから重鎮ジョージ・ルイスまで、一癖も二癖もある人ばかり。

 

まずはこちらの動画をどうぞ。

 

Roulette TV: EVAN PARKER from Roulette Intermedium on Vimeo.

 

うーむ、カッコイイ。

この手の集団即興ものって、「せーのっ」でギャーギャー吠えまくるタイプのものは別として(そういうのも大好物ですが)、「なんでこの人数でやっているのか」が分からなくなるものが結構あると思います。先日、某海外ミュージシャン2名と日本人の即興演奏家2名が共演するライブを観に行ったんですが、途中で「なんだ、各自好きなことやってるだけじゃねーか」って思って退屈してしまったことがありました。それぞれの音は好きだし、彼らのリーダー作・参加作で愛聴している音源もたくさんあるにもかかわらず、です。その時、「この手のインプロセッション的なものは、何かしら枠付けしない限り、4人以上になるとキツいのでは」とか思ったんですよね。

その点、この七人編成の演奏は、それぞれの個性を強烈に発揮し、多彩に展開しながらも、うまいこと1つのうねりを作り上げているように感じました。そして、その中からエヴァンのソプラノが立ち上ってくる時の気持ち良さと言ったら!ロスコー・ミッチェルとの大編成での共演作を聴いたときにも思いましたが、こういうのはやっぱり好きだなあ。

 

本作のジャケット内側には、"My art of composition consists in choosing the right people and these are the right people"というエヴァンの言葉が。エレクトロニクスは誰が何やってんだかさっぱり分かりませんが(笑)、近年エヴァンが共演を重ねているオッキュン・リーやピーター・エヴァンスは本当に上手いことハマってると思います。エヴァンは来年の4月にも来日するようですが、いつか彼らを連れてきて欲しいと強く願っています。