たぶん思ったことあんまりまちがってない

ジャズ アルバム紹介やライブの感想など 

2015年12月26日新宿PIT INN 50周年記念 新宿ジャズフェスティバル(1日目)

祝!50周年!

 

 

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我が最愛のジャズクラブ、新宿PIT INNの 50周年記念フェスに行ってきました。思えば、私が初めて生で本格的なジャズの演奏を観た場所もピットインでした(確か南博さんのGo There!だったはず)。今も月数回くらいは通っていますし、色んな意味で非常に思い入れの深い場所です。そのピットインの50周年を祝うフェス、なんと山下洋輔トリオのリユニオンをやるということで、なんとか都合をつけて参加してきました。

会場である新宿文化センターの大ホールは定員約1800名。普段のピットインのキャパはたぶん100ちょっとです。以前ジャズ非常階段を観た時、立ち見込みでギュウギュウに客が入ってたんですが、あの時で150~160人くらいだったはず。なので、1800人のホールがほんとに埋まるのかなと思ってたんですが、少なくとも1階席は満席でした(2階席は未確認)。ピットインのファンがそんなにいたことにビックリ。さらに、ピットインの1月のスケジュール表の表紙がblacksheepのアニメ絵で、しかもラノベ風の題字が付いていて、またビックリ。さらにさらに、プログラムと一緒に入っていたフライヤーでドン・モイエの来日(しかも生活向上委員会大管弦楽団の公演!)を知って驚愕。思わず「うおっ!」とか声を出してしましました。

 

そんなこんなでビックリしているうちに、菊地成孔さんの司会でフェスが幕を開けました。本来は亡くなった評論家の相倉久人さんが司会を務めるはずだったとのことで、フェス冒頭では相倉さん(と長年ピットインのPAをされていた藤村保夫さん)のために30秒間の黙祷が捧げられました。菊地さんらしいと言えばらしいんですが、あれはやや演出過剰だったかな。しかし、その後の菊地さんの司会っぷりは流石でした。各バンドのセットチェンジの間をピットインのオーナーとのトークや昔の写真のスライド上映等で繋ぎつつ、出演者ほぼ全員についてちゃんと紹介文を用意していて、お祭りをきっちり盛り上げていました。お見事。

 

当日出演したのは全部で7組。セットチェンジの間などに感想を軽くメモっていましたので、その一部を紹介しようと思います。

 

 

①松木恒秀グループ
松木恒秀(G), 野力奏一(Key,P), グレッグ・リー(B), 村上“ポンタ”秀一(Ds), 本多俊之(Sax), 和田アキラ(G)

オールドスタイルというか、非常にコンサバティブなフュージョン/クロスオーバーって感じ。30年前の録音と言われて聴かされたら信じちゃいそうです。異常にダサく聴こえたのは、音色の選択、特にキーボードの音色のせいなのかな。ある種の様式美なんでしょうが、個人的にはかなり苦手な音楽でした。本多俊之さんのカーブドソプラノのソロなんかは結構かっこよかったんですけどね…。

 

 

②ドリーム・セッション・パート1

鬼怒無月(G), 勝井祐二(Vn), 近藤等則(Electric Tp), 今堀恒雄(G), ナスノミツル(B), 中村達也(Ds)

こちらはゴリゴリのパワー系セッションで、まあ大好物ですよ。空間を鋭く切り裂きつつグイグイと押し広げていくような近藤等則さんの電化トランペットがクソカッコイイ。大ホールでも手を緩めることなく、破壊的・殺人的な音も繰り出していて感動しました。

 

 

大友良英スペシャル・ビックバンド
大友良英(G), 江藤直子(Pf), 近藤達郎(Key), 斉藤寛(Fl), 井上梨江(Cl), 鈴木広志(Sax), 江川良子(Sax), 東凉太(Sax), 佐藤秀徳(Tp), 今込治(Tb), 木村仁哉(Tuba), 大口俊輔(Acc), かわいしのぶ(B), 小林武文(Ds), 上原なな江(Per), 相川瞳(Per), Sachiko M(Sinewaves), ゲスト:太田惠資(Vn), 梅津和時(Sax)

新譜が出たばかりの大友さんのビックバンド。やったのはどれも新譜収録の曲で、少し短めにやってたかな。買ったばかりの新譜を聴いた時、管のソロが少ないのが物足りないかなと思ってたんですが、梅津和時さんのゲスト参加が良い感じでした。ラストの「ラジオのように」からあまちゃんのテーマ」に繋ぐメドレーも楽しくて良かったですが、エリック・ドルフィー「Stright Up and Down」渋さ知らズのダンドリ、あるいはブッチ・モリスのコンダクションみたいに、大友さんがその場で指示を出しながらやっていたのが面白かったです。

 

≪参考:ブッチ・モリスのコンダクション≫

これ生で観たら楽しいでしょうねー。

 

 

菊地成孔ダブ・セプテット
菊地成孔(Sax), 類家心平(Tp), 駒野逸美(Tb), 坪口“TZBO”昌恭(Pf), 鈴木正人(B), 本田珠也(Ds), パードン木村(Real time dub effects)

ここで司会の菊地さんのバンドが登場。ジョージ・ラッセル「The Lydiot」とかやってました。この日の出演バンドの中では、一番いわゆる"ジャズ"っぽい演奏だったかな。しかしこのバンド、音盤で聴いても生で観ても、ダブエンジニアの存在がイマイチ効果的に感じられないんですよね。かといって、ダブがなかったらただのバップだし…。類家心平さんのソロは素晴らしかったです。

 

 

佐藤允彦ソロ・ピアノ
佐藤允彦(Pf)

演奏内容的には、このプログラムがダントツで良かったと思います。最初に短く挨拶をして、その後20分間だけソロピアノをやったのですが、 いやはや凄まじい演奏でした。MCで「冒頭だけ作曲してある」というようなことをおっしゃっていましたが、大部分は即興演奏。そこで紡がれる音のすべてに必然性と確信があるように聴こえました。初めてジャズ喫茶でセシル・テイラー『Indent』を聴いた時に匹敵する衝撃と感動がありました。

 

≪参考:セシル・テイラー『Indent』≫


Cecil Taylor, Solo Piano, INDENT part 1 of 2

 

 

⑥鈴木勲スペシャル・セッション
鈴木勲(B), 板橋文夫(Pf), 井野信義(B), 本田珠也(Ds), ゲスト:ジョージ大塚(Ds), 渡辺香津美(G)

いつものオマさん。80代とは思えないスピード感で紫式部などをブリブリと弾いてました。相変わらずカッコイイ。演奏後半は渡辺香津美さん、ジョージ大塚さんとトリオで「Yesterday」。ジャズスタンダードではなく、ビートルズの方ですね。じっくり聴かせる良い演奏でした。

 

 

山下洋輔トリオ・リユニオン
山下洋輔(Pf), 中村誠一(Sax), 坂田明(Sax), 林栄一(Sax), 森山威男(Ds), 小山彰太(Ds)

これですよこれ、これを観たくて年末のクソ忙しい時に7000円も払って新宿文化センターまで行ったんです。演奏が始まる前にコルトレーン来日公演時の相倉久人さんの司会の音声が流され、菊地さんがその紹介文をもじって呼び込んだんですが、最初に出てきたのが中村誠一さん、森山威男さんの第1期山下トリオ。演奏したのは「ミナのセカンドテーマ」!続いて坂田明さん、森山さんの第2期トリオで「キアズマ」!さらに坂田さん、小山彰太さんの第3期トリオで「ゴースト」!さらにさらに、林栄一さん、小山さんと「ストロベリー・チューン」!最後は全員登場で「グガン」!もうこれは内容がどうこうではなく、山下トリオのファンサービスてんこ盛り、トッピング全部乗せみたいな演奏(もちろん、内容的にも「ストロベリー・チューン」での林さんの無伴奏ソロとか素晴らしかったんですが)。祭りの最後を締めくくるに相応しく、客席も大盛り上がりでした。

 


Yosuke Yamashita Trio - Ghost

初めて山下トリオの音楽にハマったのがこの『モントルーアフターグロウ』でした。目の前でこの演奏が再現された時(坂田さんの絶叫もありました)、興奮と感動で思わず涙が…。

 

 

大きなホールでのコンサートですし、直前にチケットを買ったために良い席が残っていなかったこともあって音響的にはかなりイマイチだったんですが、とても楽しいお祭りでした。20年以上西武新宿線沿線に住んでいたり、高校時代に寺山修司から新宿アングラ文化に憧れを持ったことがあったり、ユニオンを始めとするレコード店や書店や映画館に散々お金を落としていたり、その他色んな理由で新宿という街には特別な思いがあるんですが、その中でもピットインというのは特別な場所です。これからも可能な限り通い続けるでしょうし、「ジャズの殿堂」としてのピットインがますます発展・進化していくことに期待しています。

しかし、満席だとしたら1800人、少なくとも1000人以上はいたであろうお客さんのどれだけが日常的にライブに足を運んでるんだろうとも思ってしまいました(ちなみに、司会の菊地さんが「○○代の人拍手!」とお客さんに拍手をさせて年齢調査?をした場面があったんですが、50代以上がかなり多かったです)。吉祥寺foxholeのように閉じてしまったお店もありますが、今の東京はライブハウスが多すぎるくらいに多くて、私の行動範囲だけでも西荻窪アケタの店荻窪ベルベットサン、入谷なってるハウス、西麻布スーパーデラックス、関内エアジン、早稲田茶箱、稲毛キャンディ、国立ノートランクスなどなどで日々素晴らしい演奏を観ることができます。でも、集客が演奏内容の素晴らしさに見合ってなくてもったいないと思うことが本当に多いんですよね。ホールよりはるかに良い音で聴けますので、特に首都圏在住の方にはライブ会場に足を運ぶことをおススメします。

最後ちょっとグチっぽくなっちゃいましたが、とにかくピットイン50周年おめでとうございます!!ピットイン関係者の皆さん、ほんと感謝してます。直近では12月31日の毎年恒例年越しライブも予約済みですし、末永くお世話になりたいと思っていますので、今後とももよろしくお願いします!!

 

 

 

新宿ピットインの50年

新宿ピットインの50年

 

50周年記念本、会場の物販で購入しました。ピットインオーナーによる出演ミュージシャンへのインタビュー(『季刊・アナログ』という雑誌に連載されていたもののようです)、毎月のスケジュール表に載っているミュージシャンのエッセイ、 渡辺貞夫×坂田明etc.の対談などが収録されていて、充実の内容。インタビュー以外は大体目を通しましたが、めちゃくちゃ面白いです。

 

 

大友良英SPECIAL BIG BAND LIVE AT SHINJUKU PIT INN 新宿ピットイン50周年記念

大友良英SPECIAL BIG BAND LIVE AT SHINJUKU PIT INN 新宿ピットイン50周年記念

 

ピットインのレーベルから出た、50周年記念のライブアルバム。ドルフィーの曲を3曲やっていて、その中でも「Gazzelloni」がカッコイイ。

 

 

日本フリージャズ史

日本フリージャズ史

 

このフェスでの大友良英スペシャルビッグバンドの1曲目「Song for Che ~ Reducing Agent」は、本書の著者である副島輝人さんに捧げられました。日本フリージャズファンには必読のドキュメント、伝説、神話の数々。

 

 

 

10年前のStudio Voice発掘

十年ひと昔。

 

 

 

 

我が家(実家)の物置き部屋を整理していたら、雑誌Studio Voiceの2005年5月号が出てきました。特集は「ポスト・ジャズのサウンドテクスチュア」で、表紙は菊地成孔さん。2005年というと、菊地・大谷コンビの『東大アイラー』が出た年であり、情熱大陸やら水曜WANTED!(ラジオ番組)やらで菊地さんの各方面への露出が増えていた時期ですね。この雑誌でも、菊地さんは4ページにわたって大々的に取り上げられています。他には、大友良英さんや不破大輔さんのインタヴューがあったり、故・副島輝人さんとECDさんの対談が載っていたり。
ここに提示されているのは、Studio Voiceという雑誌が10年前に「ジャズの最先端」と考えていたもののようです。それを10年経った今読んで、興味深いと思ったところを少しだけ紹介してみようかなと。

 

 

<目次(ジャズ特集部分のみ抜粋)>

 

・ジャズその他(平岡正明湯浅学
菊地成孔インタヴュー(南部真里)
・みっつの主題からみる菊地成孔東琢磨/北尾修一/岸野雄一
・菊地によるジャズ10枚のプレゼンテーション(聞き手=三田格
大友良英インタヴュー(牧野琢磨
大友良英から考えるジャズとサントラの関係(今村健一)
渋さ知らズ一斉アンケート ジャズってなんですか?
不破大輔インタヴュー(湯浅学

 

私の考えるジャズ

・即興第一世代(竹田賢一)
フュージョンは越境していたか(若杉実)
梅津和時とNYジャズ(塚本実)
・日本のジャズ重要盤50(土佐有明/南部真里/沼田順/湯浅学/吉本秀純)
小西康陽とジャズ(北沢夏音
・クラブジャズのコア(春日正信)
・ジャズ・ノット・ジャズ:90-00S(原雅明

 

ニュー・ジャズ・ギルド

大谷能生インタヴュー(沼田順)

・秋山徹次インタヴュー(南部真里)
・simインタヴュー(土佐有明
・西海岸ジャズと日本の関係(山口元輝)
・即興の現場(伊東篤宏、談:鈴木美幸、脇谷浩昭)
・対談:副島輝人×ECD
・ジャパニーズジャズ・マップ
・ハコ聴きのジャズ(湯浅学
・ブッチ・モリスとコンダクションの20年(恩田晃)
・ジャズ・プレイリスト 大友良英南博/中村としまる/秋山徹次/渡邊琢磨/片山広明/梅津和時/恩田晃/Shing02藤原大輔大谷能生不破大輔
・アンケート ケリー・チェルコ/Dill/伊藤匠/関根靖/大蔵雅彦/ミドリモトヒデ

 


こうして目次を並べてみるとかなり面白そうなんですが、実際に読んでみると色々消化不良な感じでした。校正がガバガバで誤字・脱字だらけだったり、段組みや文字の背景色のせいで恐ろしく読みにくかったりといった内容以前の問題もあるんですが、何よりも1つひとつのインタヴューやコラムの字数が少なすぎるのがもったいない。日本のものに偏っているとはいえ、相当幅広く取り上げているんですが(Improvised Music from JapanStudio Weeまで!)、どれも字数が少なすぎていまいち踏み込めていないんですよね。JTNCのような明確な編集方針もうかがえず、とりあえず色々ぶち込んでみたんだなという印象。

こんな具合に無責任なケチをつけるのは簡単なわけですが、面白いと思ったところもありまして。

 


大友良英インタヴュー

大友「これでも僕は非常にメロディ型の人間なんですよ。で、すごく極端なことを言えば、フィラメントでやっていることとかノイズとかを自分の中で左端に置いたとしたら、反対側に昭和歌謡のようなメロディがあって、その間がすっぽり抜け落ちてるようなとこありますね。メロディはその人の生い立ちや記憶に起因するものだと思うんだけど、そんな手垢のこびりついたものと、機械がカタカタ鳴ってるだけの音を面白いと思う感覚とが僕の中では混在していて。その両方にヒエラルキーが与えない原文ママ音楽が作れないかなと思ってるんです。」

 

当時、大友さんがレコード大賞を獲ったり、紅白に出場したりするとは誰も思ってなかったでしょうね。しかし、この10年で大友さんがやっていることを見ると、このコメントには「なるほどなあ」と思う部分が。

 

see you in a dream~大友良英 produces さがゆき sings~

see you in a dream~大友良英 produces さがゆき sings~

 

そういえばこれも2005年リリースだったんですね。大友さんプロデュースの中村八大集。良企画。おすすめです。

 

 


②副島輝人×ECD

副島「ジャズは変化するからジャズなんです。世の中がどれほど変わろうが、ジャズのDNAは残っていくんです。即興とリズムと肉体。これだけはなにが起こっても消滅することはない。

 

副島さんのジャズ観がぎゅっと凝縮されたフレーズ。この雑誌の中で、大友さんが「ジャズ」というククリの中に色んなものをぶち込んでしまうことの意味のなさ、「何がジャズか」なんて結局個人的な思い込みに過ぎないこと等を語っていて、私もそれは正しいだろうと思っています。ただ、私は副島さんがその生涯を通して論評し、紹介し、オーガナイズし、愛し続けたような「ジャズ」が好きだし、その可能性をある種ロマンティックなまでに信奉しています。

 


渋さ知らズ「本多工務店のテーマ」Live in Zürich 1998

2分半頃から、踊り狂う副島さん。晩年もピットインの客席でちょくちょくお見掛けしました。

 


③アーティスト・プレイリスト120
12人のミュージシャンが「ジャズ」を10枚ずつ選ぶという企画。

片山広明さんや梅津和時さんのチョイスは納得が行き過ぎるくらい納得の行くもので、AEOC『Message to Our Folks』『Nice Guy』、ICPオーケストラ『Bospaadje Konijnehol I』、コルトレーン『Live at The Village Vanguard Again』、オーネット『This is Our Music』などが並んでいるのを見るとうれしくなってしまいます。
そうかと思えば、Shing02さんがアート・ブレイキー『Free for All』のようなハードバップの名盤の中にハン・ベニンクのソロを混ぜていたり、秋山徹次さんがシドニー・ベシェルイ・アームストロングと一緒にジェームス・ジトロを選んでいたり、ちょっと意外なものも。
企画自体はベタといえばベタですが、色んな意味で面白かったです。

 

 


Art Blakey & The Jazz Messengers - Free For All

普段フリージャズがどうのこうのということばかり書いていますが、実はジャズ・メッセンジャーズも結構好きで。ウェイン・ショーターがいた頃の作品は愛聴盤がいくつかあります。

 


この10年前の特集を読んでみて、思ったほど「時代を感じるなー」というものはなかったですね。強いてあげるなら、クラブジャズのところで「とりあえずバヤカは聴いたほうがいい。彼らはジャズの未来への鍵を握っている」とか書かれているところと、デヴィッド・ヴォイスにそこそこのスペースが与えられていることくらいかな。

雑誌に関しては、経済的・物理的体力の問題があって収集してないんですが、こうしてたまに古いものを読んでみると面白いですね。中古レコードのライナーノートを見ても、「当時はこの人こんな扱いだったのか」とか思うことありますし(なんだったかロフトジャズ系のレコードのライナーノートで、リッチー・コールが「これからの時代を担っていくプレーヤー」みたいに紹介されていたのを見た記憶が)、古本屋やジャズ喫茶で昔のジャズ批評なんかを読むと色んな発見があったりして。

私はちょうど2005年頃に初めてジャズに触れ、大学に入学した2007年あたりから本格的にCD等を集めるようになったので、それ以前のことは本やネット等で得た知識しかないわけです。もはや雑誌というメディアは旧時代の遺物になりつつあるとはいえ、後から振り返ってみるためにも、その時代時代の空気の一部を切り取ったものが残っていくというのは重要なことだなと思っています(SNSの方が情報発信も交流も容易なのにブログという形式に拘っているのは、過去記事を検索・閲覧しやすいという理由だったりします)。

今流行りの(?)『Jazz The New Chapter(JTNC)』も、何だかんだ全巻買っているのですが、10年後、20年後に読み返したら面白いと思うんですよね。物の管理が上手い方ではないんですが、きちんと取っておこうと思っています。

 

 

Virginia Genta, Dag Stiberg, Jon Wesseltoft, David Vanzan / DET KRITISKE PUNKT

前回更新から大分間が空いてしまいましたが、なんとか生きています。

 

 

Det Kritiske Punkt [12 inch Analog]

Det Kritiske Punkt [12 inch Analog]

 

Virginia Genta(Ts, Melodica, Wood Flute), Dag Stiberg(As, Khaen), Jon Wesseltoft(Gt, Electronics), David Vanzan(Dr, Per)

 

 

いくつか大事な締め切りを抱えていまして、ここしばらくはクッソ忙しく、ブログを更新する余裕がありませんでした。四谷いーぐるでのblacksheep『+ -Beast-』試聴会に行って吉田隆一さんと少しカマシ・ワシントンの話をしたこととか、The Thing with 今井和雄、坂田明がめちゃくそかっこよかったこととか、記事化しようと思ってたことはいくつかあったんですけどね…。まだまだ2月までは忙しい日々が続くのですが、とりあえず今回取り上げる作品だけは今年中に紹介しておきたいと思いまして。

 

イタリアのVirginia GentaDavid VanzanノルウェーDag StibergJon Wesseltoftの4人(全員正確な発音がわからない 笑)によるパワー系ゴリゴリのフリージャズ/ノイズです。基本的に嵐のような轟音がずっと続くんですが、鈍重な感じはなく、LP両面の最後まで興奮状態が維持されるのが素晴らしい。心地よくノイズに身を委ねることができて、無駄に頭使う必要がないのがサイコーですね。癒されます。

…とはいえ、ただ無軌道にデタラメやってるだけでもなく、それなりに演奏者間のやり取りや変化があるし、何よりVirginia Gentaの音の説得力がハンパないです。何年か前に↓の動画を観て惚れ込んでいたんですが、この人めちゃくちゃイイ。

 


VIRGINIA GENTA & CHRIS CORSANO live in Lisbon, August 2008

何度見てもカッコイイ。サックスを上下に振りながら吹く姿もアツい。

 

個人的に音一発でやられちゃうっていうサックス奏者が何人かいるんですが(広瀬淳二、一時期のアーチー・シェップガトー・バルビエリ等)、この人もその1人です。ちなみに、ググっていたらこの人に対するメールインタビューを発見して(前半後半)、その中で「阿部薫に少し似ている」という話が出てたんですが、そんなに似てないというか、アプローチはだいぶ違うような気がします(しかしこのインタビュー、イタリアのフリージャズ事情なんかも話されていて実に興味深いです)。

彼女のHPを見ると、結構たくさん作品出しているし、ヨーロッパや北米でツアーもやってるみたいです。しかし、LPやカセットでのリリースが多く、日本では流通していないものばかり。何とかして来日してくれたら、物販で色々買い漁りたいんだけどなあ…。本作もLPのみのリリースで、しかも150枚限定のようですが、今ならAmazon等で簡単に購入できますので、この手のフリージャズやノイズ、インプロが好きな方はぜひ。オススメです!!

 

 

≪参考動画≫


JOOKLO DUO @ Philadelphia, April 4, 2014 (1)

この2人は長年「Jooklo」という言葉を入れたユニットを色々やっているようです。youtubeにはプリペアドピアノを弾いている動画なんかも。

 


Maranata @ SuperDeluxe - March 2009

ノルウェーの2人の来日ライブの映像。ドラムはにせんねんもんだいの人。動画の投稿者はLasse Marhaug本人なのかな?

 

 

2015年11月22日(日)Ftarri Festival 2015@六本木Super Deluxe

もう何日か経っちゃいましたが、一応簡単な記録を残しておきます。

 

2015年11月22日(日)Ftarri Festival 2015@六本木Super Deluxe

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即興、実験音楽、特殊音楽etc.のレーベル/ショップを運営するFtarriのイベントに行ってきました。Ftarriは水道橋に実店舗を持っていて(品揃えヤバし。ポイントカードのサービスも超充実)、そこでライブイベント等もやっているのですが、今回は2日間にわたる大きなイベントで、会場は六本木のスパデラでした。2日目だけ参加した私の目当ては、イギリスのサックス奏者ジョン・ブッチャー2年前に横浜エアジンで観たソロのライブが忘れられず、なんとしてでも観たいと思っていました。

 

当日のタイムテーブルは以下の通り(Ftarriのサイトより)。

 

午後3時 第一部(演奏時間:各25分)

・ユエン・チーワイ (エレクトロニクス) + 川口貴大 (ホーン、風、煙、ほか) + 徳永将豪(アルト・サックス)

・島田英明 (電子変調ヴァイオリン) + ヤン・ジュン (エレクトロニクス) + 康勝栄 (エレクトロニクス)

 

午後4時05分 第二部(演奏時間:40分)

・杉本拓作曲『Septet』
演奏:杉本拓 (ギター) + 大蔵雅彦 (クラリネット) + 池田陽子 (ヴィオラ) + 池田若菜 (フルート) + マティヤ・シェランダー (コントラバス) + 入間川正美 (チェロ) + 宇波拓 (サイン波)

 

午後5時 第三部(演奏時間:20分)

・スティーヴン・コーンフォード作『Digital Audio Film』

(3台のプロジェクターを使った映像とサウンド)
プロジェクター操作:スティーヴン・コーンフォード
演奏:スティーヴン・コーンフォード (CD プレイヤー) + パトリック・ファーマー (CD プレイヤー) + 河野円 (CD プレイヤー)
テクニカル・アドヴァイザー:田巻真寛

 

午後5時40分 第四部(演奏時間:各25~50分)

・中村としまる (ノーインプット・ミキシング・ボード) + 秋山徹次 (ギター) + リュウ・ハンキル (ラップトップ)
・The International Nothing:ミヒャエル・ティーケ (クラリネット) + カイ・ファガシンスキー (クラリネット)

 

午後7時35分 第五部(演奏時間:各40分)

鈴木昭男 (アナラポス、ほか) + 大友良英 (ギター、ほか) + Sachiko M (サインウェイヴ)
・ジョン・ブッチャー (テナー・サックス、ソプラノ・サックス) + ロードリ・デイヴィス (エレクトリック・ハープ)

 

ご覧の通り、15時から21時の長丁場。一度に何組も出るイベントってあまり好きではなくて(集中力がもたないし、各組の演奏時間が短くなるのが…)、ブッチャーの出る後半だけでも良いかなとも思ったのですが、『Alto Saxophone2』の印象が鮮烈だった徳永将豪さんの演奏が観たくて、最初から参加することに。午前中に教会の礼拝に出席し(私はプロテスタントのクリスチャンなので)、昼食を済ませて、急いで電車に飛び乗りました。会場に着くと、当日九州から飛行機で駆け付けた(!)というid:yoroszさんが。近くに座って、休憩時間に少しお話もしながら、最後までライブを鑑賞しました。

 

もう数日経っていますし、8組も出たのですべてにコメントはしません。特に印象に残った2組のことだけ記しておきます。

 

 ・杉本拓作曲『Septet』

7人の演奏者が、一定の持続音を約40分間ひたすら繰り返すという作曲作品。聴き始めは、「ああ、よくあるミニマル的なアレか。ちょっと期待外れかな」とか思ってしまったのですが、数十分も続くと聴き手(私)の意識に変化が迫られました。極端に変化の乏しい音にじっと耳を傾けているうちに、「これ演奏者にとっては地獄だろ」と演奏者の身体や意識に対する想像力が喚起させられたり、目の前で起こっていること(演奏)を今まで見聞きしてきたものに当てはめようとする自分の心性に気づかされたり。そうこうしていると、ほぼ"何も起こらない"ままに演奏は終了。
「音(音楽)を聴くことの意味を問う」みたいなコンセプトを前面に出すようなもの(特にサウンドアート/インスタレーションの類)って、陳腐でどうでもよく感じるものも多いのですが、この『Septet』はなかなか面白い体験でした。聴いてて辛くなってくる恐ろしい音楽なので、CD買って家で聴くことはしませんが笑。

 

・ジョン・ブッチャー (テナー・サックス、ソプラノ・サックス) + ロードリ・デイヴィス (エレクトリック・ハープ)

 

映像では二種のハープを使っているロードリですが、今回は机に置いた小さいハープのみ。

 

ジョン・ブッチャー、さすがでした。恐ろしい集中力で、次々とアイディアが湧き出してくるような演奏。前衛・即興系の人がよくやるように、ブッチャーもキーのカチャカチャ音をマイクで拡張するなどの特殊な奏法を使うんですが、それらすべてが「音楽的」に聴こえるんですよね。2年前のエアジンの時のような「頭の中で直接鳴り響く感覚」を得ることはできませんでしたが、素晴らしい演奏でした。これ、早稲田茶箱稲毛CANDYのような狭い箱で、生音で聴けたら最高だったと思います。

 

全体を振り返ってみて思うのは、休憩時間にyoroszさんと話したことでもあるんですが、どうやら私は「身体性」を捨象したり、切り離したり、漂白しようとする音楽には興味を持ちづらいようです。それが即興演奏でも、作曲作品でも。もちろん、エレクトロニクスはNGとかそういう話ではありません(たとえばIncapacitantsのライブなどは身体性の塊を思いっきりぶつけられるように感じます)。しかし、自分が管楽器の演奏を偏愛しているのは、演奏者の身体の構造や奏法、セッティング等々によって、「個」の違いが強烈に出るというのが大きいんですよね。あくまで私の趣味の問題ですが、身体性を(意図的に)漂白するような演奏は、そうした「個」の面白さが見えにくいような気がしていて。個々の演奏者の「その人にしかない音」がはっきりとあって、それが共演者の音と調和したり、ぶつかったり、ハミ出したりしながら何かを生み出すようなところに、私は音楽を聴く喜び(自由)を感じています。

 

その意味で、ジョン・ブッチャーの演奏は、今の私にとってほぼ理想的なものでした。身体と直結したサックスという楽器の可能性を拡張し、なおかつ共演者との関係の中でお互いに新しいものをどんどん引き出していくような演奏。

今回、スケジュールの都合で1度しかライブを観られなかったのが本当に残念です。また近いうちに来日してくれることを心から期待しています。

 

 

Kamasi Washington / The Epic

マジメ感。


The Epic [帯解説 / 国内仕様輸入盤 / 3CD] (BRFD050)

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  • アーティスト: KAMASI WASHINGTON,カマシ・ワシントン
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  • 発売日: 2015/05/16
  • メディア: CD
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今更ですが、いま流行っている(らしい)カマシ・ワシントンの新譜を聴いてみました。タワレコ等のレコ屋で大々的にプッシュされているし、「カマシ・ワシントン」でgoogle検索・twitter検索してみると、絶賛コメントの嵐。来日ライブも好評だったみたいですね。

この人の音楽を聴くのは、本作がまったくの初めてでした。確かJTNC3で紹介を読んだような気がするし、フライング・ロータスらとやっているというのは何となく認識していたのですが、Youtube等でも彼の演奏は一切聴いておらず。先日ユニオンの新譜コーナーを見ていたときに、吉田隆一さんがカマシ・ワシントンのことを「絶対全力ブロウするマン」と称していたのを思い出し、衝動的に購入してしまいました[11月18日追記:コメント欄で吉田さんが補足してくださったので、ぜひご覧ください]。

 

 

3枚組約170分の大作。とりあえず3回聴いてみました。


Kamasi Washington - 'Re Run Home' - YouTube

 

1回目「あれ?なんか期待してたものと違…あれ?」

2回目「うーん、おそらくやりたいことのベクトルは好みなんだけど、何か物足りないなあ。」

3回目「この人絶対マジメな人だわ。」

 

ざっくりと感想をまとめるとこんな感じ。「コルトレーンファラオに連なる王道のスピリチュアルジャズ」と喧伝されていて、私もそういうものだと思い込んで聴いてしまったのですが、60~70年代のブラックスピリチュアルもの(?)にあるような胡散臭さ、怪しさは皆無と言っていいのでは。確かにコーラスやストリングスが入って妙に壮大だったり、カマシのテナーがやや泥臭さを見せたりはします。でも、なんと言うか、すごく"ちゃんとしている"んですよね。サンダーキャットらのリズムセクションはすごく現代的だし、アレンジも決して適当に手を抜いたものではないでしょう。カマシのサックスも、所々でアツいソロを取ってますが、ファナティックに吠えまくるようなものではなく、ちゃんとコントロールされています(音色面でやや抜けが悪く、いまいち前に出てこないのがもどかしく感じたんですが、私の聴取環境が劣悪なせいなのか、ミックスの問題なのか。その辺ライブ行った人に聞いてみたいです)。

 

カマシへのインタビュー(by柳樂光隆さん、by原雅明さん)等を読むと、UCLAで民俗音楽と作曲を専攻したとのことで、高等教育受けてるんですよね。影響元もはっきりと公言していますし、結局本作はそれらの先達の音楽をきちんと研究して、丁寧に作り上げたマジメな力作なんだと思います。


それと、現代的なリズムセクションの上でスピリチュアルっぽいものをやるというのは、たぶんクラブジャズ界隈の人たちがずっとやってきたことではないでしょうか。柳樂さんが、「カマシはあそこまでストレートなジャズ作品なのに、ピッチフォークなどジャズ以外のメディアにも高く評価されているのもすごいですよね」と書いてますが、こういうものが保守的なジャズメディア以外で称賛されるというのはよく分かるような気がします。

 

ちなみに、今回本作のレビューや感想を色々読んでみて(めちゃくちゃいっぱいありました)一番しっくりきたのが、上記の発言を含む柳樂さんの紹介文(Mikiki掲載)でした。「ドラマティックなんだけど暑苦しくないんですよね。スピリチュアル・ジャズには、いろんなものが突出しているけど何かが欠けているといった不揃いな部分が多かったはずだけど、『The Epic』にはそういう欠けた部分が見当たらない」という指摘など、ものすごく的確。レコ屋の宣伝文句的な「ジャズの新時代」「革命児」「LA最先端」といった煽り文も山ほど見たんですが、そういうのは大半が言い過ぎですね。マジメな人が作ったマジメな作品として、ちゃんと聴いてあげるべきでしょう。

 

 

≪本文中にまとめきれなかった余談的なもの≫

こちらの記事でカマシがMy Top5の1つとしてドルフィーの『Out to Lunch』を挙げている件(ドルフィーとLA)。

・本作収録の「チェロキー」のアレンジがすごく『天才ローランド・カークの復活』っぽい件。一時期のアーチー・シェップも想起。

・ジャズでPitchforkで高得点取ったのって何があるんだろうと思って検索してみたら、メアリー・ハルヴァーソン『Meltflame』マタナ・ロバーツ『Coin Coin Chapter3』が出てきた件。
・↓「ブラックスピリチュアル」「豪快なテナー」というキーワードで連想していたものたち。

 

 


David S. Ware - Godspelized - YouTube

 


Joe McPhee - Nation Time - YouTube

 

 

 

アンディ・ハミルトン『リー・コニッツ ジャズ・インプロヴァイザーの軌跡』(2015年 DU BOOKS)

ようやく読了。

 

 

リー・コニッツ ジャズ・インプロヴァイザーの軌跡

リー・コニッツ ジャズ・インプロヴァイザーの軌跡

 

 

 

リー・コニッツのインタビュー本を読みました。注や年表も入れると約500頁にもなる大著。その大半を占めるのが、数年にわたる著者とコニッツの対談です。そして、その合間にはコニッツに関するミュージシャン等へのインタビューが挿入されていて、その数は約40にも上ります。このインタビューはどれも短いものですが、メンツがすさまじい。ビリー・バウアーサル・モスカといったトリスターノ・スクールの面々に加え、ロリンズオーネットらジャズ・ジャイアンツ、デイヴ・リーブマンジョン・チカイエヴァン・パーカーまで!

正直に告白すると、私はコニッツの熱心なファンではありません。リーダー作は10枚くらいしか持ってないですね。たまに聴くと良いなと思うんですが、どうにもあの独特の音色が好みではなくて。愛聴盤と呼べるのは、↓これくらいかな。

 

I Concentrate on You

I Concentrate on You

 

レッド・ミッチェルとのデュオで、コール・ポーター集。たまにこういうのがあるからスティープル・チェイスもあなどれません。

 

あとはギル・エヴァンスとのデュオをたまに聴く程度。そんな非コニッツファンの私が読んでも、この本はめちゃくそ面白かったのです。かなりのボリュームですから、当然色んな話が出てくるわけですが、面白いと思ったポイントをざっくりまとめてみます。

 


ポイント①:コニッツのぶっちゃけ方
気に入らないミュージシャン(演奏)に対して容赦なくガンガン毒を吐いてます。自身のドラッグの使用歴についても、冗談交じりとは言え、まったく隠そうとしないぶっちゃけっぷり。チック・コリアに誘われてサイエントロジーにコミットしていた時期があったけど、金がかかりすぎるからやめたなんて話も。
20世紀のジャズジャイアンツの神話として、読み応え十分です。

 

 

ポイント②:コニッツのジャズ観
全編を通して見られるのが、コニッツの「メロディ」に対する執着です。ロリンズが「色々な曲に手を出す」ことに対して批判しているところがあるのですが、コニッツってAll the Things You Are等を延々と、執拗と言えるほどに演奏し続けてますよね。セシル・テイラーを聴いて、「しばらくの間はとても魅力的なんだよ、だけど伝統的な方法による何らかの形式とか、もっとメロディックインタープレイがぜひとも欲しいね」なんて言葉も(p.305)。
そして、少し意外だったのは、コニッツが他のミュージシャンを評するときに、「スウィング」「リラックス」という言葉を多用していることでした。
結局のところ、コニッツにとって重要なのは、リラックスしたリズムの上でメロディをインプロヴァイズすることであって、基本的には「スウィングしなけりゃ意味ない」のです。コニッツを「硬派なインプロヴァイザー」と括ってしまうのは短絡的に過ぎるのだなと気づかされました。

 

 

ポイント③:他のミュージシャンのコニッツ評
まあ当然のことなのですが、インタビューを受けた人の大半がコニッツを絶賛しています。異口同音に、コニッツがいかに独創的であったかということを語り、パーカーのエピゴーネンだらけの状況でコニッツが登場したときの衝撃や、コニッツに対する「クール」というレッテルが誤りであること、コニッツが正当に評価されていないことなどが述べられています。その中で興味深い分析を行っているのが、ガンサー・シュラーデイヴ・リーブマンポール・ブレイなど。サックスの奏法におけるパーカーからの影響、トリスターノとの異同などについて、普通のジャズ史本では踏み込めないところまで語っています。これはすごい。

 


そのほかにも、コニッツが「フュージョンもやってみたかったけど誰も呼んでくれなかった」なんて言っていたり、面白いところはまだまだあるので、ジャズファンには超おススメです。原著は2007年にミシガン大学出版局から出ているのですが、これを翻訳・出版した翻訳者とディスクユニオンブックスに感謝。今の日本でコニッツがどれくらい人気があるのか全然分からないんですが(私の通っているジャズ喫茶のマスターは「うちのお客さんでもコニッツ好きだって人はあんまりいないよ」って言ってました)、出版不況の中これを出した勇気は賞賛に値すると思います。拍手。

 

次はジョージ・ルイスのAACM本を出してくれないかなー(ボソッ

 

Resonance Ensemble / Double Arc

2015秋のヴァンダーマーク祭り、開幕のお知らせ。

 

 

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Alto Saxophone, Bass Clarinet – Mikołaj Trzaska
Alto Saxophone, Tenor Saxophone – Dave Rempis
Baritone Saxophone, Clarinet [Bb] – Ken Vandermark
Bass – Mark Tokar
Clarinet [Bb], Alto Clarinet – Wacław Zimpel
Drums – Michael Zerang, Tim Daisy
Electronics [LLoopp] – Christof Kurzmann
Trombone – Steve Swell
Trumpet – Magnus Broo
Tuba – Per-Åke Holmlander

 

 

先日吉田野乃子さんの新譜(大傑作)の記事でもグチをこぼしてしまったのですが、8月に注文したケン・ヴァンダーマークの新譜がなかなか届かず、ここしばらくずっとヤキモキしていました。それがようやく発送連絡が着まして、おそらくあと1週間もすれば、フォトブック+2CD『Site Specific』PNLとのデュオ『Lions Have Eaten One of the Guards』Fred Loberg-Holmとのデュオ『Resistance』がまとめて届く予定です。少し前にResonance Ensembleの新譜も届いてまして、これからしばらくは久々にヴァンダーマーク漬けの日々を送ることになりそうです。


このResonanceの新譜は、ゲストにChristof Kurzmannを迎えていて、不穏な電子音で始まりますが、まあ基本的にいつもと同じヴァンダーマークの中編成の感じです。激かっこいいリフと、色んな組み合わせのインプロ。作曲と即興が溶け合ったというか、即興が組み込まれた作曲というか。

 

ところで、最近リー・コニッツのインタビュー本(リー・コニッツ ジャズ・インプロヴァイザーの軌跡』。クッソ面白いです。そのうち紹介記事書くかも。)を少しずつ読み進めているんですが、そこで語られている「即興」観が興味深いなと思っています。コニッツは「メロディをインプロヴァイズする」という言い方をしていて、彼にとっての「インプロ」というのは、ほとんど「メロディの変奏」に近いもののように思います。コニッツは事前にストックしておいたフレーズの引用(クリシェ)を強く否定しますが、ゼロからまったく新しいものを生み出せと言っているのではなく、メロディを深く理解した上で、その瞬間瞬間で創造的なプレーをすることを「インプロヴァイズする」と呼んでいるようです。このインプロ観は、クリシェからの脱却という点は共通していても、「メロディ」や「ジャズ」からも抜け出そうとしたデレク・ベイリーらのそれとは別物でしょう。

※こうしたコニッツの見方には、チャーリー・パーカー(と有象無象のフォロワー)の出現という時代状況が大きく影響しているのだと思いますが、その話はまた別の機会に。

 

さて、Resonance Ensembleに話を戻すと、このバンドでのヴァンダーマークの「作曲と即興」に対するアプローチは、上記の二者ともまた違っていて。しかし、これって実は新奇なものというわけではなくて、まっとうに(フリー)ジャズ的なアプローチを発展させた1つの結果のような気がするんです。多種多様なバンド/プロジェクトを率いるヴァンダーマークですが、根っこのところには大きく「ジャズ」があるのではないかと。そこが個人的にすごく好きなところだったりするわけです。

 

 

≪参考動画・音源≫ 

 

過去作の音源ですが、一応これも貼っておきます。 

 

 

リー・コニッツ ジャズ・インプロヴァイザーの軌跡

リー・コニッツ ジャズ・インプロヴァイザーの軌跡

 

 ジャズにおける「作曲と即興」、あるいは「自由」の観念については、エリントンやエレクトリック期のギルオケも参照すると面白いことが考えられそうな気がしています(加藤総夫さんが指摘した「エリントン・固定的なのに自由に感じられるのはなぜか問題」など)。現代ジャズの「アンサンブルの時代」(©村井康司)、「New Chapter」(©柳樂光隆)を語る上でも重要な視点だと思うので、誰かガッツリ批評書いてくれないかなー(他力本願)。